歯科医師によるフッ素塗布の効果や安全性
- 2024/07/17
- 歯とお口の基礎知識
この記事の目次
■歯科医師がフッ素塗布をおすすめする理由
歯科医院で定期検診を受けるとき、フッ素の塗布を提案されませんか?
一般の方々のなかには、「フッ素が虫歯予防に有効なことはわかるけど、ネットでみるとデメリットもあるようなので不安」という方もおられるようです。
結論からいうと、フッ素は現時点で虫歯予防にもっとも有効で安全性が高い物質という位置づけになっています。
このことは、長期にわたる疫学的、医学的な研究で明らかにされた事実です。使用法が簡便で低コストでもあることから、医療経済の観点でも有用性が高いと考えられています。
疑問1:そもそもフッ素って何?
フッ素は元素番号9番の元素です。自然界ではイオン化して別のものと結合していることが多く、その場合は「フッ化物」といいます。このため、最近では「フッ素塗布」というよりも「フッ化物塗布」「フッ化物応用」などと呼ばれることが多くなっています。
フッ素は科学的に合成されたものではなく、自然界にもともと広く分布している元素です。
フッ化物は、実は私たちが日常的に口にする食品にも広く含まれており、特に茶葉には多く含まれています。茶葉をそのまま食べることは少ないので、あまり参考にはならないかもしれません。
魚介類、海藻類、海水塩などにも比較的多く含まれ、肉類や野菜、果実などほとんどの食品に微量ながらも含まれているのです。
もちろん、私たちの体内にも存在します。
疑問2:フッ素塗布が虫歯予防に役立つのはなぜ?
では、フッ素塗布が虫歯予防に役立つ理由をみていきましょう。
1.脱灰(だっかい)抑制作用
歯のエナメル質の結晶内にフッ化物が取り込まれると、「フルオロアパタイト」「フッ化ハイドロキシアパタイト」と呼ばれる物質になります。
これらは、もともとの歯よりも酸に対して溶けにくくする物質です。
虫歯は、歯垢にふくまれる細菌が産生する酸によって歯からカルシウムやリンが溶け出し(これを脱灰といいます)、穴が開いてしまうものです。フッ化物を歯に塗布することにより、この脱灰が起こりにくくなります。
2.再石灰化の促進
脱灰したエナメル質は唾液の力によってカルシウムイオンやリン酸イオンの取り込みを行い、エナメル質を再構築します。これを再石灰化といいます。
歯にフッ化物を塗布すると、カルシウムイオンやリン酸イオンの濃度が低い状態でも再石灰化が起こりやすくなるので、脱灰からの回復が早まると考えられています。
3.細菌による酸性化を防ぐ
フッ化物は歯垢に含まれる細菌が産生する代謝酵素を阻害し、酸性化を抑制します。虫歯は酸によってできますので、虫歯の予防につながります。
疑問3:どんなふうに使うの?
フッ化物の応用は、水道水にフッ化物を添加して摂取する「全身応用」と、フッ化物を歯に塗布したりフッ化物を配合した歯みがき剤や洗口液などを使ったりする「局所応用」に分けられます。全身応用については日本では行われていませんので、ここでは局所応用について説明します。
1.フッ化物歯面塗布
主に歯科医院で高濃度フッ素を歯に塗布する方法です(図)。「トレー法」「イオン導入法」、直接塗布など、歯科医院により若干の違いがあります。
図 歯科医院で使われるフッ化物歯面塗布剤の例
2.フッ化物洗口
低濃度のフッ化物を配合した洗口液でお口をすすぐ方法です。
3.フッ化物配合歯みがき剤
フッ化物を配合した歯みがき剤で歯みがきをする方法です。
4.その他
スプレータイプのフッ化物をお口に吹き付けたり、ジェルタイプのフッ化物を歯みがき後に塗布したりする方法もあります。
疑問4:体に害はないの?
フッ化物を一度に大量に摂取してしまいますと、腹部症状(悪心、嘔吐、下痢など)や中毒症状を引き起こす可能性があります。
しかし、これまでにフッ化物を配合した製剤や歯みがき剤、洗口液などにより副作用が発現したという報告はなく、承認取り消しになった製品もありません。
一回量を誤って大量に飲み込んでしまった場合でも、こうした症状が起こることはきわめて少ないといえます。ただし、お子さまが誤って大量に飲み込んでしまわないよう、歯みがき剤や洗口液は手の届かないところに保管してください。
長期に大量のフッ化物を摂取してしまうと、まれに歯や骨に「フッ素症」がおこる場合があります。
歯のフッ素症は、歯面全体にチョークのような白斑ができるものです。
ただし、これまでの疫学調査の結果から、こうした症状がおこるのは飲料水中のフッ素濃度が日本の基準値の2.5倍以上であった場合に限られます。
したがって、現在の日本では気にすることはなく、水道水にフッ素が高濃度で添加されている国での注意事項となります。
骨のフッ素症は、さらに高濃度のフッ化物飲料水によって引き起こされますので、特別な状況により引き起こされるものであると考えてよいでしょう。
疑問5:保険は使えるの?
フッ化物歯面塗布は、一定の条件をクリアすれば保険で行うことができます。できない場合もありますので、かかりつけの歯科医院にご相談ください。
フッ化物を使った虫歯予防は、効果や安全性、コスト、手間を考えると、とても有用性の高い手段です。このため、私たち歯科医師は患者さまにフッ化物応用をお勧めしています。
ただし、虫歯の予防法はフッ化物応用だけでなく、歯みがき、仕上げみがき、食べものの質と食べる頻度、定期検診など多岐にわたります。
このサイトをご覧になり、まだフッ化物応用に不安や疑問を抱かれている方は、かかりつけの歯科医師とご相談の上、それ例外の予防法を強化することで虫歯予防に努めてください。
■参考
「フッ化物をめぐる誤解を解くための12章+4つのトピックス」眞木吉信 医歯薬出版株式会社
「スタンダード衛生・公衆衛生」安井利一、荒川浩久ら 学建書院
厚生労働省e-ヘルスネット フッ化物利用(概論)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-006.html (2022年2月8日閲覧)