そしゃく能力検査って何?

フレイルの早期発見に重要

 食べものを噛みくだくことを「咀嚼(そしゃく)」といいます。毎日、何気なく行っているそしゃくですが、実は私たちの身体にとってとても重要な役割を担っています。このため、加齢や病気などにより、そしゃくする力が低下すると全身の健康に大きな影響をおよぼします。今回は、そしゃくの意味、そしゃくする力を調べる「そしゃく能力検査」についてご紹介します。

毎日、何気なく行っているそしゃくの大切な役割

まずは、そしゃくの役割をみてみましょう。
1.食べものを飲み込みやすくする
 ほとんどの食べものは、噛まずに飲み込むことはできません。そしゃくをすることで食べものを唾液と混ぜ合わせ、飲み込みやすいかたちになります。
2.消化を助ける
 食事の重要な役割は栄養摂取です。栄養を適切に体内に取り込むためには、食べものを吸収可能な状態に分解する必要があります。そしゃくをすることで、唾液中の酵素であるアミラーゼが炭水化物を糖に分解します。
3.唾液分泌の促進
 そしゃくすることにより、唾液の分泌が促進されます。唾液には、お口のなかを洗浄したり、うるおしたり、保護したり、抗菌作用を示したりといった、さまざまなはたらきがあります。
4.おいしさを感じる
 食べものを噛むことにより、舌ざわりや歯ごたえを楽しむことができます。また、食べものをさらに噛みくだくことで甘味や塩味、酸味、苦味、旨味などを感じやすくなり、おいしさをより味わうことができます。
5. 免疫機能の向上
  軟らかいものばかり食べていると、免疫機能の低下を引き起こす可能性があるといわれています。ある程度硬い食べものを噛むことにより、免疫機能を保つ効果が期待されます1)

オーラルフレイルに早く気づいて適切な対策を

そしゃくは、このように全身の健康維持にとても重要な役割を担っています。加齢や病気などにより心身の機能が衰え、健康と要介護状態の中間の状態になることを「フレイル」といいます。このフレイルは、口の機能の衰えである「オーラルフレイル」から始まるといわれているのです。つまり、オーラルフレイルに早く気づいて適切な対策をとることが、心身の衰えや要介護状態の予防につながるということになります。オーラルフレイルに気づくためのチェックリストには、「半年前に比べて硬いものが食べにくくなった」「さきいか・たくあんくらいの堅さの食べものを噛むことができる」という質問項目があり、はい、いいえで答えるようになっています2)(表)。この2つは、そしゃくする力の低下を判定する質問項目です。チェックリストで「オーラルフレイルの危険性が高い」と判定された方は、歯科医院で検査やオーラルフレイルの改善プログラムを受けることをお勧めします。

オーラルフレイルに気づくためのチェックリスト

従来行われてきたそしゃく能力検査の長所と短所

 では、オーラルフレイルが疑われた場合、歯科医院ではどのようにそしゃく能力を検査するのでしょうか。従来行われてきたそしゃく能力検査には、次の2つがあります。
1.食べものの粉砕の具合から判定する方法
 ピーナッツ、生米、煎餅などを一定時間噛んでもらい、食品の粉砕具合からそしゃく能力を判定します。
2.食べものに含まれる内容物の溶出量から判定する方法
 ガムやグミを噛み、食へものの色の変化や内容物の溶出量からそしゃく能力を判定します3)。 
食べものの粉砕の具合から判定する方法は、古くからそしゃく能力検査として多くの研究に用いられてきました。しかしながら、判定する食品の条件を揃えるのが困難だったり、検査に時間がかかったりするのが問題でした。また、食べものの内容物の溶出量から判定する方法は判定する食品の条件が一定になりやすく、検査時間が短いという長所がある一方、短所としては検査のために特別な機械が必要となることがあげられます。

図2 咀嚼チェックガム(きちんとそしゃくできると色が変化する)

グルコセンサー グルコースを含むグミを咬んでそしゃく能率を判定

新しいそしゃく能力検査(グルコセンサー検査)

最近、このような従来の検査の弱点を克服する、新しいそしゃく能力検査が開発されました。これは、糖分(グルコース)を含有したグミゼリーと水分中のグルコース濃度を測定する「グルコセンサー」を使い、そしゃく能力を判定する検査方法です(図3)3)。
この検査は「グルコセンサー検査」と呼ばれ、そしゃく能力を簡便かつスピーディーに数値化して判定できる利点があります。
1.グルコース含有のグミゼリーを20秒間噛んだあと10mlの水を口に含み、グミゼリーと一緒に吐き出します。

グミゼリーの大きさは1.5cm程度

そしゃくを行なったグミゼリーを水と一緒に吐き出す

2.吐き出した水分中に溶けたグルコースの濃度をグルコセンサーで測定します。測定は6秒で完了します。測定値は、グルコセンサーにグルコース濃度として表示されます。測定値が100mg/dl未満であれば、「そしゃく能力低下」と判定されます。検査時間約20秒、測定時間約6秒と、わずか1分以内にそしゃく能力が判定できる検査です。

図3 グルコセンサー検査(グミゼリーを噛んでそしゃく能力を判定)
測定結果は、6秒で表示される。表示は161mg/dl。
そしゃく能力は問題がない。

そしゃく能力に不安を感じたら歯科医師に相談を

そしゃく能力が低下している診断されると、原因に応じた治療が必要となります。
たとえば、歯を失っている場合は入れ歯やインプラント、ブリッジなどの補綴(ほてつ)治療を行います。また、噛むための筋肉に衰えがみられる場合、筋肉のトレーニングが必要となります。オーラルフレイル、フレイルを早期に発見して適切な対策をとるため、硬いものが噛めないなどそしゃく能力に不安を感じたら、歯医者さんに相談してみてください。

参考文献

1)小林義典. 咬合・咀嚼が創る健康長寿. 日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 3 : 189-219, 2011 日本補綴歯科学会
2)一般社団法人神奈川県歯科医師会 神奈川県オーラルフレイルプロジェクトチーム「.オーラルフレイルハンドブック(歯科専門職向け)第2版.」 2020
3)日本補綴歯科学会. 咀嚼障害評価法のガイドライン ―主として咀嚼能力検査法―. 日補綴会誌46巻4号.2002

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員
カナリア歯科クリニック 川原 綾夏

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