唾液の仕組みとはたらき
- 執筆者
- 神奈川県歯科医師会会員・相模原市歯科医師会会員 浅川 和也
- 2024/12/13
- 歯とお口の基礎知識
今回は唾液が持つ主なはたらきや、分泌される仕組みなどをご紹介します。
【唾液の仕組み】
まずは唾液の仕組みについてご紹介します。唾液は口腔内にある「唾液腺」から分泌されており、成人の分泌量は1日あたり1.0~1.5リットルほどです。
夜眠っている間は日中に比べて分泌量が抑えられるため、唾液のはたらきが低下します。また、ストレスや薬による影響など、さまざまな理由で唾液の分泌量は変化します。
【唾液のはたらき】
唾液は口内を潤すためだけに分泌されているわけではありません。たとえば、会話や食事といった日常生活はもちろん、さまざまなところで無意識のうちに役立っています。以下では唾液のはたらきについてご紹介します。
粘膜保護・潤滑
唾液が歯や口内粘膜を覆うことで、細菌による刺激や感染、歯の摩耗・脱灰(歯のエナメル質の溶解)を防いでくれます。また、潤いによって舌や喉の動きがなめらかになり、食事や会話がスムーズになります。
自浄
1日1リットル以上も分泌される唾液は、口内細菌や食べ物のカスを洗い流す役割も担っています。これを自浄作用や洗浄作用と呼び、とくに食事中の咀嚼行為によって活発に行われるはたらきです。
水分平衡
呼吸や会話で、口内は常に乾燥の危機にさらされます。乾燥すると細菌が繁殖しやすくなったりするため、ある程度の潤いが必要です。唾液の分泌は口内の水分量を調節する役割もあり、これを水分平衡と呼びます。
緩衝
唾液に含まれる炭酸・重炭酸・リン酸などの成分は、口内のpHバランスが酸性・アルカリ性のどちらかに傾かないよう、調節してくれます。細菌は口内の食べカスなどをエサにしますが、分解時に有毒ガスや酸を発生させ、脱灰を起こし、虫歯の初期症状にもなってしまいます。しかし唾液が口内のpHバランスを整えることで、歯の脱灰を防いでいます。
抗菌
リゾチーム、ペルオキシダーゼ、免疫グロブリン、ラクトフェリンなどを含む唾液は、口内に侵入した細菌の活動を抑えています。自浄作用とともに細菌の繁殖を阻害する重要なはたらきです。
消化
唾液中に含まれる消化酵素アミラーゼは、デンプンと反応して麦芽糖へ分解します。咀嚼によって食べ物と混ざり、消化を助けています。
組織修復
上皮成長因子と神経成長因子が含まれる唾液は、組織修復による傷の治癒を促してくれます。「ケガをしたときにツバをつけておけば治る」という考えは、この組織修復のはたらきによるものです。
再石灰化
カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ素イオンを含む唾液は、食事によって一時的な脱灰状態となった歯のエナメル質の再石灰化を促してくれます。
脱灰状態の進行を防ぎ、虫歯リスクを軽減しています。
【唾液に含まれるIgAでインフルエンザを予防】
体内への悪い菌の侵入を防ぐシステムは、粘膜免疫と呼び、インフルエンザなど重症化しやすい病気の発症を予防しています。
その粘膜免疫を担っているのが、免疫物質のIgA(免疫グロブリンA)です。口内に侵入してきた病原体は、IgAがくっつくことで無力化されます。細菌だけではなくウイルスにもはたらきかけるため、風邪やインフルエンザなどウイルス性の病気の発症を防ぐには、なくてはならない存在です。
上記のようなはたらきをはじめ、唾液中に含まれる成分が、口内や全身の健康をサポートしています。
【唾液が減るとどんな影響がある?】
ストレスなど、さまざまな理由で唾液の分泌量は減少します。そして十分な唾液の分泌がなければ、口内が乾燥するため、細菌が繁殖しやすくなります。細菌が繁殖すれば口臭や虫歯リスクが高まる他、体内にも侵入しやすくなり、風邪など全身の病気につながりかねません。
- 口腔運動の低下(麻痺や合わない入れ歯・義歯の使用など)
- 刺激の減少(食べ物のにおいを嗅いだりする機会がない)
- 脱水(発汗や嘔吐・下痢による体内の水分量低下)
- 薬剤による副作用(降圧薬,抗ヒスタミン薬,抗てんかん薬, 抗パーキンソン病薬,精神安定薬など)
- 日常生活の癖(口を開きっぱなしにする)
- 口内組織への強い刺激(刺激の強い歯磨き粉などの使用)
【唾液を増やすためにできることとは】
些細なことで唾液の分泌量は減りますが、以下のように日常生活の中でできる工夫を意識して行うことで、唾液の分泌を正常化させましょう。
- よく噛む(刺激で唾液の分泌を促す)
- 水分補給(唾液に必要な水分を得る)
- 口呼吸ではなく鼻呼吸を意識する(口内乾燥を防ぐ)
- お酒やたばこを控える(刺激を減らす)
- 唾液腺マッサージ(唾液の分泌を促す)
【まとめ】
唾液は組織修復や歯の脱灰を軽減するだけでなく、口内環境を整えることで全身の健康を守る役割も担っています。口腔環境の改善など健康のためにも正常な唾液の分泌を意識していきましょう。それには「生活習慣の見直し」や日常生活でできる工夫を続けることが大切です。
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浅川 和也神奈川県歯科医師会会員・相模原市歯科医師会会員
あさかわ歯科医院