ワイヤー装置とどう違うの? ~マウスピース型矯正装置の特性とは~
- 執筆者
- 神奈川県歯科医師会・川崎市歯科医師会会員 南保 友樹
- 2024/07/26
- 歯とお口の基礎知識
近年、マウスピース型矯正装置(アライナー)を使用し、矯正治療を行う患者さんが増えています。ですが、その治療の達成度や歯周組織に与える影響についてはあまり認識されていないのが現状です。
そこで今回は、マウスピース型矯正装置(アライナー)に関して最新のエビデンス(医学的根拠)をもとに、その特性についてご紹介致します。
マウスピース型矯正装置(アライナー)で可能な歯の動きとは?
マウスピース型矯正装置(アライナー)にて予測実現性(治療計画通りに歯が移動すること)が高いのは、下記の動きです。
①前歯の軽度叢生(デコボコ)の改善
②歯列弓幅径(左右の歯と歯の距離)の拡大
③奥歯(特に上顎)の遠心移動(後方への移動)
一方、予測実現性が低いのは
①犬歯や奥歯の回転移動
②歯根の向きのコントロール
③オーバーバイト(咬み込みの深さ)の改善
これをふまえて、下記に歯種別の移動難易度を列挙致します。
マウスピース型矯正装置(アライナー)における歯種別の移動難易度
予測実現性が低い傾向がある「回転移動」については、マウスピース型矯正装置(アライナー)1枚につき1.5°以内の動きであれば問題無い、という報告もあります。
このように、マウスピース型矯正装置(アライナー)には得意な歯の動き、苦手な歯の動きがあることが明らかになっており、この特性を活用した歯の移動を行わなければなりません。
歯根への影響は?
矯正治療は、歯根吸収(歯の根っこが短くなること)についての考慮も重要です。上顎前歯では、ワイヤー装置に比べてマウスピース型矯正装置(アライナー)の方が歯根吸収が少ない傾向がある、という報告があります。マウスピース型矯正装置(アライナー)は矯正治療における歯根吸収を防ぐものではありませんが、歯根吸収の発生と重症度はワイヤー装置と比較して低くなる可能性があります。
口腔衛生状態への影響は?
矯正治療開始から1年後までの歯周組織の変化を追った論文では、「磨き残しの量」「歯肉の炎症」「歯周ポケットの深さ」のいずれもワイヤー装置に比べてマウスピース型矯正装置(アライナー)の方が良好である、という結果でした。このことから、矯正治療中の歯周組織の健康維持にはマウスピース型矯正装置(アライナー)の方が優れていると言えます。
痛みの度合いはワイヤー装置とは違うの?
矯正移動による痛みは、治療初期(最初の数日)の痛みはワイヤー装置に比べてマウスピース型矯正装置(アライナー)の方が少なかったが、その痛みの違いは徐々に無くなり、3か月経過時では両者の痛みに差は見られなくなった、という報告があります。痛みの度合いは、患者さんの年齢や不正咬合の程度、歯の動かし方、歯科医師の技術レベルによっても差が出るため、ワイヤー装置とマウスピース型矯正装置(アライナー)に明確な違いがあるとは言えません。
後戻りは?
動的治療(歯を動かす治療)後の後戻りは、ワイヤー装置に比べてマウスピース型矯正装置(アライナー)の方が後戻りが大きく、ワイヤー装置も含めて一般的に後戻りしやすい下顎前歯だけでなく上顎前歯にも後戻りが生じる、と報告されております。
つまり、マウスピース型矯正装置(アライナー)における矯正治療後の歯並びの安定性は、ワイヤー装置に比べて劣る傾向があると言えるため、保定装置(リテーナー)の長時間の使用が必須です。
以上より、マウスピース型矯正装置(アライナー)にはワイヤー装置とは異なる特性があり、歯並び、咬み合わせの状態によっては、ワイヤー装置よりも優位になる場合もあります。ワイヤー装置もマウスピース型矯正装置(アライナー)もあくまで歯を動かす「ツール」の一つです。装置ありきで治療を進めるのではなく、患者さんの症状に最適な装置を使用して治療を受診されることを推奨致します。
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南保 友樹神奈川県歯科医師会・川崎市歯科医師会会員
なんぽ矯正歯科 川崎・新百合ヶ丘