「在宅歯科医療」の取り組みについて
- 執筆者
- 神奈川県歯科医師会 地域保健委員会 宮尾 昌祥
- 2024/11/27
- 歯とお口の基礎知識
高齢化社会がますます進む中、歯科医療の重要性はいっそう強くなっています。
しかし高齢者の方々が歯科医院に通院するには大きな困難が伴います。
そこで神奈川県歯科医師会が力を入れているのが、「在宅歯科医療」です。
今回は、自宅で歯科の治療を受けられる、在宅歯科医療の取り組みをご紹介します。
在宅歯科医療が大切な理由とは?
高齢者人口は年々増加を続け、神奈川県においてもすでに高齢化率が25%を超え、今後もさらなる超高齢社会の到来が予測されています。
また、歯科医療技術の向上と国民の口腔保健に対する関心の高まりによって、80歳になっても20本以上自分の歯を保っている人の割合は平成5年は10.9%に過ぎませんでしたが、令和4年には51.6%と半数を超えました。自分の歯を多く残すことのできている高齢者がとても多くなりました。
しかしながら高齢者は、唾液分泌量の低下や入れ歯の汚れなどが原因で、口腔内細菌が繁殖しやすい状況にあるためにどうしても虫歯や歯周病に罹患しやすく、実際、虫歯や歯周病を有する高齢者は増加傾向にあります。虫歯や歯周病を放置してしまうと歯の喪失を引き起こし、咀嚼機能をはじめとする口腔機能の低下を招きます。食べるという楽しみばかりではなく、生活の質の低下や生きるための意欲に悪い影響を与えてしまいます。
さらに、そうした疾患は口腔内のみならず糖尿病や心疾患、脳梗塞、誤嚥性肺炎、認知症など様々な全身疾患とも関連があるといわれています。高齢者にとって、生活の質の維持・向上のためには歯科医療は必須といえます。
これまでは、高齢者に対する歯科医療は主に外来を中心に行われてきました。しかし、歯科受診率は80歳以上になると急速に減少傾向になってしまいます。特に要介護高齢者については、歯科治療を必要としている人が64.3%存在しているにもかかわらず、実際に医療につながっている割合は2.4%にとどまっているという調査もあります。こうした状況を改善するため、通院が困難となった高齢者に歯科医療を提供しようと、現在、「在宅歯科医療」が積極的に推進されています。
神奈川県での在宅歯科医療の取り組みとは?
在宅歯科医療では、高齢者の方々のご自宅を歯科医が訪問します。そして、虫歯や歯周病の治療はもちろん、入れ歯の調整や作製、口腔のケア、また摂食嚥下障害の疑いがある方への口腔機能の評価やリハビリテーションなどを行っています。
神奈川県歯科医師会でも、在宅歯科医療推進のための取り組みとして「在宅歯科医療地域連携室」を設立いたしました。こちらでは歯科医院へアクセスできない地域住民の方々に対し、在宅歯科医療についての相談や在宅歯科医療を提供することができる協力医の紹介を行っております。在宅歯科医療をご希望の方は、こちらをご覧いただき、まずご相談いただければと思います。
https://www.dent-kng.or.jp/iryou/zaitaku/
また、在宅歯科医療推進のためには、歯科の専門職のみならず、医師、薬剤師、介護支援専門員など多くの職種の方々と連携を図っていくことが必要になります。県歯科医師会としても連携・協同に力を入れており、さらにはそうした方々向けに歯科側からの様々な研修会も行っています。
今後も増え続ける高齢者の方々が住み慣れた地域で安心して暮らせるようするために、多くの職種の方々と協同し、在宅歯科医療をより充実させていき、神奈川県民の生活を支えていくことができればと考えています。
参考文献
神奈川県年齢別人口統計調査結果報告
令和4年度歯科疾患実態調査
令和元年度日本歯科医学会プロジェクト研究「フレイルおよび認知症と口腔健康の関係に焦点化した人生 100 年 時代を見据えた歯科治療指針作成に関する研究」中間報告書
- 執筆者情報
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宮尾 昌祥神奈川県歯科医師会 地域保健委員会
武蔵小杉デンタルクリニック