骨粗鬆症や悪性腫瘍の治療薬と顎骨壊死について

執筆者
神奈川県歯科医師会 安藤 一郎

はじめに

骨粗鬆症や悪性腫瘍の治療のためのお薬を服用されている方には、抜歯などの外科治療後に顎骨壊死(あごの骨の細胞が死んでしまうこと)が発症するリスクが高いことをご存じでしょうか?
専門的には、薬剤関連顎骨壊死(MRONJ medication-related osteonecrosis of the jaw)とよばれ学会などでは頻繁にこのような事例は報告されていますが、近年では開業医レベルでも確認されるようになってきており、薬剤関連顎骨壊死は身近なものとなってきたという実感があります。

顎骨壊死とは?

BP製剤やデノスマブ製剤(どちらも骨粗鬆症の治療に用います)は骨代謝を抑制し骨粗鬆症が進行しないようにするお薬ですが、これらのお薬を服用中に顎骨に炎症が生じると、骨の細胞が治癒せずに死んでしまう=顎骨壊死(薬剤関連顎骨壊死)が引き起こされることがあります。
顎骨壊死が生じると、口腔内の痛みで食事が困難となります。
痛みを軽減するには、歯医者さんで継続的に専門の口腔ケアを行う必要があります。
また状態が悪化すると、口腔外科病院で、顎骨壊死部分を切除する手術と顎骨再建が必要となることがあります。

患者さんの実例

実例1

83歳女性、骨粗鬆症によりBP製剤を20年服用しています。
慢性的に歯周病に罹患されていましたが、左下の奥歯が重度歯周病でお痛みがあるとのことで、当院を来院されました。当院では口腔清掃と抗生剤を投与し、急性症状の緩和を待って、総合病院歯科口腔外科へと紹介いたしました。右下の奥歯は保存が難しく抜歯が必要となりましたが、骨髄炎と骨髄壊死を発症してしまい、顎骨の継続的な治療が必要となりました。

実例2

82歳女性、骨粗鬆症によりBP製剤を20年間服用中。部分入れ歯を使用しています。
右下の奥歯に重度の歯周病が見られました。お痛みが強いとのことで、総合病院歯科口腔外科へと紹介いたしました。右下奥歯は保存が困難とのことで抜歯となり、同口腔外科にて、抜歯後、経過管理を行っていましたが、1か月後顎骨壊死が発症してしまいました。顎骨切除の外科手術を行い、症状は寛解しましたが、切除部を再建するための特殊義歯が必要となりました。その後、当院にて歯周病治療を継続しています。

薬剤関連顎骨壊死にならないためには

詳しい原因、発生機序、治療法などは割愛しますが、薬剤関連顎骨壊死は、抜歯そのものが原因ではなく、口腔衛生状態の不良、歯周病や根尖病変(歯の根の病巣)、顎骨骨髄炎、インプラント歯周炎等の口腔内の細菌が、顎骨に感染病変を形成することが原因と言われています。
高齢者が罹患すると長期にわたり疼痛、腫脹を伴い気の毒な状態が続いてしまいます。そうなってしまうと、一般開業歯科医では鎮痛、洗浄、消毒治療程度しか対処できず歯がゆい思いをするのが現状です。
薬剤関連顎骨壊死を引き起こさないためには、歯周病などが悪化しないようにすること=普段の口腔管理が何よりも大切です。先ずは悪くなる前に、歯科医院へ通院下さい。

 

参考文献

顎骨壊死の病態と管理
顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023

執筆者情報
安藤 一郎
神奈川県歯科医師会

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