学校歯科健診で児童虐待予防を!
- 執筆者
- 神奈川県歯科医師会会員 坂井 隆信
- 2024/08/14
- 歯とお口の基礎知識
学校での歯科健診は、歯の健康を診るだけでなく、実は「児童虐待」の発見・予防にも大きな力を発揮しています。
ここでは歯科健診が果たす児童虐待予防の役割についてお伝えしていきます。
皆さんは小学校・中学校・高等学校で行われた歯科健診を覚えていますか?
学校での歯科健診は通常は新学期の4月から6月までの3か月間に行うこととされていますが、コロナの影響でここ数年は「年度内に実施」となっています。子どもの成長はとても早いので、例えば4月に健診を受けた子どもと翌年の3月に健診を受けた子どもでは身長・体重などはかなり差が出るでしょうし、これはお口の中も例外ではありません。なのでここ数年は全国統計にも少し影響が出ました。これからは通常の時期に戻れるようなので少し安心です。
歯科健診の内容は、むし歯のチェックはもちろん、歯肉の状態やかみ合わせ・歯並び、顎の関節などお口の周りの様々な状態をみます。しかしそれ以外にも、児童虐待の予防につながる重要な役目も持っているのです。それはいったいどういうことでしょうか?
例えば、歯科健診をしていると、ひとりでたくさんのむし歯を持っている子どもや、お口の清掃状態がとても悪い子どもを見つけることがあります。こうしたお子さんは、ネグレクト(育児放棄)を受けている疑いがあります。
ネグレクトは「保護の怠慢」でもあり、親が家庭内で子どもの口腔内に無関心であったり、子どもが痛みを訴えても歯科医院に連れて行かなかったり、歯みがきの習慣を家庭で持っていなかったり、といったことが重なって、子どものお口の中がひどい状態になっていることがあります。ですので、歯科健診によって、そうした親からネグレクトを受けている子どもを発見できることがあるのです。
虐待には①身体的虐待②性的虐待③ネグレクト④心理的虐待があり、特に歯科健診で発見できやすいのがネグレクトであると言われています。
また、身体的虐待を見つけることもあります。例えば、歯が不自然に折れている、お口の中に不自然な傷があるなどのケースです。
さらに、心理的虐待を受けている子どもを発見するケースもあります。そうしたお子さんは歯科健診中にひどく怯えたり態度が不自然だったりすることがあるので、それがきっかけで心理的虐待に気づくのです。
こういった虐待を受けている可能性のある子どもを発見した時、われわれ学校歯科医は養護教諭などの学校関係者に報告、または児童相談所に通告する義務があります。一般的には「局番なしの189(いちはやく)」が有名ですね。189にダイヤルすると一番近隣の児童相談所に繋がります。この通告は匿名でもよいそうです。そして子どもの「不自然さ」を歯科健診の場でしっかりと発見できるように、われわれ学校歯科医はお口の中だけではなく「その子どもの全体像を診る目」を養うよう、日々研鑽を積んでいます。
この世の中から虐待を受け笑顔の無くなった子どもが一人でも減るよう、一学校歯科医として願ってやみません。
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坂井 隆信神奈川県歯科医師会会員