歯科治療後の献血について
- 執筆者
- 神奈川県歯科医師会・大和綾瀬歯科医師会会員 岡田 誠二
- 2024/03/27
- 歯とお口の基礎知識
尊い善意を生かすために
日本赤十字社のホームページには、「出血を伴う歯科治療を受けた日から3日間は献血をご遠慮ください」と書かれています。
これにはきちんとした医学的な理由があるのですが、それを知らないと「自分の血液を困った人のために役立ててほしい」という善意をはねつけられたような気持ちになるのもムリはありません。
そこで、今回は歯科医の立場から、出血を伴う歯科治療を受けた患者さんに献血を控えていただく理由をご説明します。
献血は助け合いの精神に基づく「生命のリレー」
献血とは、病気やけがの治療で輸血や血漿分画製剤(けっしょうぶんかくせいざい)1)の投与を必要とする患者さんのため、健康な方々がご自身の血液を自発的に無償で提供することです。
なぜ献血が必要かというと、血液はいまだに長期保存することも人工的につくることもできないからです。だからこそ、大切な血液を分け合って生命をつないでいくのですね。
その意味では、献血は助け合いの精神に基づく「生命のリレー」といえるでしょう。こうした精神に共感し、献血を習慣づけている方々も少なくありません。
その一方でかかりつけの歯科医院を定期的に受診し、歯や口のケアをする方々が増えています。その際、歯石の除去を含めて出血を伴う歯科治療を行った直後に献血を控えるよう勧められているのは、どうしてなのでしょうか。
出血を伴う歯科治療から3日間は献血を控える
日本赤十字社のホームページには、「献血をご遠慮いただく場合」の1つの例として、次のように記載されています。
「出血を伴う歯科治療(歯石除去を含む)に関しては、抜歯等により口腔内常在菌が血中に移行し、菌血症になる可能性があるため、治療日を含む3日間は献血をご遠慮いただいています」
菌血症とは、通常無菌であるはずの血管内に細菌が入り込むことです。このこと自体は珍しいことではなく、感染症や転んで膝をすりむいたときなどにも起こります。
熱が出たりだるくなったりすることもありますが、若くて健康な方であれば無症状または軽症で済むことが多いといえます。
しかし、高齢者や持病などにより免疫が低下している方々の場合、歯科治療で出血したときに口のなかにもともといた常在菌が血中に移行して増殖し、全身をめぐって敗血症をきたす可能性があります。
敗血症になると心臓や肺などの重要な臓器がダメージを受けて多臓器不全となり、最悪の場合、生命を落とすこともないとはいえません。
このため、歯科医院でこうしたリスクがある患者さんに出血を伴う治療を行うときは、あらかじめ抗生物質を投与するなどして予防に努めています。
輸血を受ける人々を守るために必要なこと
出血を伴う歯科治療を受けた直後の患者さんに献血を控えていただくようお願いしているのは、輸血を受ける側の方々を守るためです。
先述のように、献血する側の方々は基本的に若く健康で、菌血症が起きたとしても無症状または軽症であることが多いと考えられます。
一方、輸血を受ける側の方々はどのような状態にあるかわかりません。高齢者や持病などにより免疫が著しく低下している方々が輸血を受ける可能性もあります。
その場合、無症状または軽症の菌血症の方々から献血された血液であっても、輸血されると菌血症が重症化して敗血症をきたし、生命にかかわることがないとはいえません。
出血を伴う歯科治療を受けた日から3日間は献血を控えていただくようお願いしているのは、治療から3日経てばこうしたリスクが避けられると考えられているためなのです。
献血は現在の医療になくてはならない「生命のリレー」であり、皆さんの善意で成り立っています。
せっかくの尊い善意をよりよく生かすため、今後ともこうしたことを念頭に献血にご協力いただきたいと思います。
1)血漿分画製剤:血液に含まれる淡黄色の血漿成分からアルブミンや免疫グロブリン、血液凝固因子などのタンパク質を抽出し、純化・精製した医薬品。
献血は生命のリレー(日本赤十字社神奈川県赤十字血液センターHPより)
クロスウェーブ湘南藤沢献血ルーム(日本赤十字社神奈川県赤十字血液センターHPより)
■参考
日本赤十字社ホームページhttps://www.jrc.or.jp/donation/about/refrain/detail_09/
- 執筆者情報
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岡田 誠二神奈川県歯科医師会・大和綾瀬歯科医師会会員
セントルカ眼科歯科クリニック