マウスピース型矯正装置は従来の装置と同じように治るのか
- 2023/02/17
- 歯とお口の基礎知識
最近、SNSの広告などにマウスピース型矯正装置を見ることが増えてきたように思います。特に最近の宣伝は、歯医者いらずとか通院不要をうたい、これにより治療費が安くなったということをアピールしているものが多いような気がします。矯正装置は装置をつけること、時間がかかること、高額なことが患者さんにとっては、治療開始を悩ませる要件でないかと思います。日本にも広がりつつあるマウスピース型の矯正装置は、このような欠点をすべて払拭し、良いことばかりなのでしょうか?
学会などはこのようなマウスピース型矯正装置に関してどのようなコメントを出しているのでしょうか?公益社団法人日本矯正歯科学会は、2019年の6月に「マウスピース型矯正装置による治療に関する見解」https://www.jos.gr.jp/4348を出しています。この中で、歯科医師が介在しない形でマウスピース型矯正装置が販売されていることに対する危惧を示しています。矯正治療における診断は、それほど容易なものではなく、例えば歯を抜くのかどうか、歯をどう動かすのか、どこまで動かして良いのかという判断にはレントゲンなどによる資料からの判断と、それに加え矯正医の経験に大きく関わる部分です。まして歯の精密な移動は従来型の装置に比べると難しいことより、診断が十分でない上でコントロール性に劣ることもある装置を使うというのはさらにリスクが高くなるということも考えられます。
また、矯正専門開業医で組織される公益社団法人日本臨床矯正歯科医会も、マウスピース型矯正装置について
・効果が装着時間に影響されること
・適応症例が限られること
・歯の根もと部分についての情報が欠けていること
などの欠点をあげ、警鐘をならしています。(vol.23 アライナーを使った不適切な矯正歯科治療が増えている:https://www.jpao.jp/15news/1525trendwatch/vol23)
まずは、専門家の診断が必要、適応症例が限られるというところは非常に大切なところです。
最近、ヨーロッパでは興味深い論文が発表されました。マウスピース型矯正装置と従来型の固定式の矯正装置の効果を比較することを目的として、887例の症例を含む過去の11の研究を対象に調査したところ、、従来どおりのブラケットを用いた矯正治療と同等の治療方であるとは言えないとしており、また治療期間には2つ装置により違いはないということを報告しています。
今後このような研究報告は増加してくると思いますが、一方でマウスピース型矯正装置自体、そしてそれを使う側の進歩もあるとは思います。それでも診断が不要だったり、歯科医師の介入が制限されるというのは国内学会の見解をみてもとても危険なことではないかなと感じます。
■参考文献
公益社団法人 日本矯正歯科学会 ポジションステートメント マウスピース型矯正装置による治療に関する見解
トレンドウォッチ:vol.23 アライナーを使った不適切な矯正歯科治療が増えている|矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」
### Treatment outcome with orthodontic aligners and fixed appliances: a systematic review with meta-analyses Spyridon N Papageorgiou , Despina Koletsi , Anna Iliadi , Timo Peltomaki , Theodore Eliades European Journal of Orthodontics/, cjz094, https://doi.org/10.1093/ejo/cjz094 Published:* 23 November 2019**
神奈川県歯科医師会・秦野伊勢原歯科医師会会員
高橋矯正歯科医院 高橋滋樹