口腔清掃の重要性:ウイルスに負けない地域社会のために
- 2021/11/09
- 歯とお口の基礎知識
インフルエンザの流行に毎年悩まされてきた私たちに、今年から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威が加わりました。このウイルスは感染力が強く、都市での活動とウイルス感染防止の両立は容易ではありません。
手で顔を触らないこと、頻繁に手洗いをすることが感染予防の要点です。しかし感染予防だけでは対応が難しいのがこのウイルスです。県民の皆様にはこの感染症が口腔細菌との混合感染で重症化することに着目していただきたいと思います。ウイルスと細菌の混合感染によるダブルパンチが危険なのです。その理由を簡単にご説明します。
口腔清掃をしないと細菌に由来する様々な毒性物質が歯肉に炎症を起こし上皮細胞を破壊します。これが日本人の8割が罹患している歯周病の始まりです。
この歯周病を放置すると細菌や毒性物質が歯肉の毛細血管から全身に拡散します。米国の報告では歯磨き停止実験に参加した健康な若者50名のうち56%が歯周病による内毒素血症(エンドトキシンと呼ばれる細菌毒素LPSが血液から検出される病態)を起こしますが、これはその後の口腔清掃により回復します。口腔の細菌やエンドトキシンなどの毒性物質が最初に到着するのは心臓と肺です。血液培養で細菌が検出される病態である菌血症が発症している人にウイルスが感染すると混合感染による肺炎のリスクが高くなります。また、細菌を含む唾液を誤嚥することも二次的細菌性肺炎のリスクになります。
混合感染の治療では、抗生物質の投与が必要ですが、副作用として腸内細菌叢による腸管防御力が低下するのは避けられません。そのときに唾液中の細菌(クレブシェラ菌や歯周病菌など)が腸に入ると腸管免疫系の変調を招きます。
以上をまとめますと、口の中の細菌や毒性物質は、循環器、呼吸器、消化器の3方向へ拡散し、ほぼすべての臓器に慢性炎症と免疫異常を起こします。平時ではそれが循環器病、誤嚥性肺炎、潰瘍性大腸炎のリスクになりますが、COVID-19による緊急時では敗血症の重大なリスクです。
そこで、神奈川県民の皆様が口腔清掃の重要性を理解し、平時においてむし歯と歯周病の治療を完了し、昼の歯磨きをするなどこれまでよりもレベルの高い口腔清掃を行い、緊急時の敗血症に備える必要があります。さらに厚生労働省の健康日本21(第二次)が掲げる健康づくりの6要因「栄養、運動、休養、禁煙、節酒、歯・口腔の健康」を積極的に遵守し、今年の冬に第二波の到来が予想されるCovid-19に負けない健康を平時においてつくることも大切です。
(花田信弘:鶴見大学歯学部教授、元国立感染症研究所口腔科学部長)