口の中のケアが、新型コロナウイルス感染を防ぐ
- 2022/09/22
- 歯とお口の基礎知識
この記事の目次
新型コロナウイルスが猛威をふるっています。
実は「お口の中を健康に保つこと」が、
新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐために欠かせないのです。
口の中の衛生状態が悪くなっていると、
ウイルス性肺炎に細菌感染が加わり、より重症化しやすくなります。
お家でできるお口のケアをしっかり行うこと、そして必要なら歯科医院にかかること、どちらもとても大事なのです。
新型コロナウイルス感染症に備える 観点から、お口の健康がいかに大切か、お話ししましょう。
新型コロナの感染拡大を防ぐために、お口の中を健康にしよう
新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。この原稿を書いている4月26日時点で、すでに日本の感染者数は1万3000人を超えています。全国的な緊急事態宣言の真っただ中にあり、外出自粛で不安な毎日を送っている方も多いと思います。
ウイルスは口や鼻の粘膜などから感染すると言われます。また新型コロナウイルスは感染力が強く、近い距離で話しているだけでも飛沫から感染する可能性があります。徹底した手洗い、マスク着用、外出を控え、いわゆる「3密」を避けること、といった基本的な感染予防対策はぜひ続けてください。
それと同時に、「お口の中を健康に保つこと」も、感染予防にとても大事なことなのです。
しかし読者の方には、お口の健康を保つことと、新型コロナウイルス感染予防にいったい何の関係があるの?と思う方もいらっしゃると思います。いったいどういうことなのでしょうか?
しっかり歯が磨けていない、むし歯や歯周病が治っていない、といった状態を続けてしまい、口の中の衛生状態が悪化すると、口腔内の細菌の数が増えてしまいます。そうすると免疫力が低下したり、細菌による炎症を併発する結果ウイルス性肺炎が重症化する傾向があります。すでに喘息や肺炎にかかっている人は症状がさらに悪化しやすくなります1,2,3)。
新型コロナウイルスは、口の中に入ると、レセプターと呼ばれる鍵穴のようなところにまるでカギが入るようにくっついて、感染していきます。このレセプター(ACE2)は舌の粘膜の上に豊富にあり4)、そのため経口感染には特に気を付けなくてはなりません。
とりわけ、新型コロナウイルス感染で重症化しやすいとされる、高齢者の方や、糖尿病などの基礎疾患をお持ちの方は、口の中の衛生状態に特に細心の注意が必要です。
では口の中の細菌の数を増やさないようにコントロールするには、いったいどうしたらよいでしょうか。
それにはまず、一人一人のホームケアがとても有効です。丁寧な歯みがきはもちろん、舌苔除去(舌磨き)、歯周ポケットや歯肉溝をフロスなどでしっかりと清掃すること、さらに義歯もきれいに清掃することなど、基本的なケアの積み重ねがきわめて大事になります。また、ブラッシング時にデンタルリンスなどを併用することも効果的です。
そして歯科医院で、徹底した口腔ケアも必要であると思います。口の中の状態をしっかりとチェックし、行き届いていないところをケアすることができます。
こうしたケアを徹底することでウイルス性疾患を重症化させないように備えておきましょう。
ウイルスに感染し肺炎を引き起こしてしまった場合、緊急時に人工呼吸器が装着される事態も起こりえます。そのとき、口の中の細菌の数が多いと 細菌が増殖して肺の中に入ってしまい、肺炎が重症化するリスクが高まります。そのためにも、口の中の衛生状態をきれいに保っておくことはとても大切なのです。
感染を防ぐもう一つのキーワード「咀嚼と栄養」
コロナ対策としてお口を清潔に健康を保つこと。さらにもう一つ大切なのが、「咀嚼と栄養」です。実は 咀嚼機能は、免疫力を落とさないために、とても大事なのです。
例えばこれをお読みの方の中にも、入れ歯が合わないから使わないままでいる、むし歯がひどくあまりしっかり食べられない、といったように、咀嚼が不十分になっている人もいると思います。そうした方はとくに要注意です。
咀嚼機能が低い状態(100mg/dl以下)が長期間続くと、柔らかい食事が常態化しやすく、それらの多くは糖質に偏った食材です。それらはブドウ糖の摂取量を上げるので糖尿病悪化のリスクを高めることにもつながります6,7)。また咀嚼力を要求される肉類の摂取が減ってしまえば、タンパク質低栄養が進行し、血中アルブミン値が低下(3.5g/dl以下)してしまいます。こうした状態は著しく免疫力の低下を招くことになるのです。
低栄養化によって免疫力が落ちれば、新型コロナウイルス感染症の重症化につながる恐れがあり、死亡率が上昇するリスクも高まると考えられます。
緊急事態宣言の中であっても、むし歯の方や義歯の調子が悪い方は、決してそのまま放置せず、歯科医院を受診しましょう。応急で構いませんので、痛い歯の治療や、義歯の治療を行なって、栄養摂取の妨げにならないように速やかに対処しましょう。
またご家庭では、いつもよりタンパク質やビタミンを含む食材を摂取するように心がけてください。
歯科治療はライフライン、しっかり受診しよう
ただ、外出自粛が叫ばれる状況の中、歯科医院にかかることを不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
特に歯科では、口を開けて治療が行われる状態が続くので、患者さんも感染しないかと心配に感じるのではないかとも思います。
しかし、歯科医院は、患者さん全てが感染している前提で、感染制御のプロフェッショナルとして盤石な感染予防態勢を実施しておりますから安心して受診してください。
歯科医療は、あなたのライフラインをつなぐ生活の医療です。歯に痛みがあったり、噛めない場合など、必要があれば、歯科医院をしっかりと受診しましょう。専門的な口腔ケアをしたり、咀嚼機能を回復する、といったことが必要な取り組みになるのです。
終わりに:医療崩壊を防ぐために、口の中のケアを!
お口の中の衛生状態を改善し、食べる機能を整えておくことは、実は新型コロナウイルス対策と直結しています。また仮に感染したとしても、発症したり重症化しないような免疫力を維持した身体の状態がとても大切です。
そうした皆さんの健康を保つ努力が、日本全体の医療崩壊を防ぎ、国民の公衆衛生向上につながるものと考えています。
元国立感染症研究所客員研究員
鶴見大学歯学部臨床教授 医学博士 武内博朗
参考
1)Hayashida S et al. The effect of tooth brushing, irrigation, and topical tetracycline administration on the reduction of oral bacteria in mechanically ventilated patients: a preliminary study. BMC Oral Health, 16(1):67, 2016.
2)Adachi M et al. Effect of professional oral health care on the elderly living in nursing homes. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 94(2):191-5, 2002.
3)BrennanMT et al. The role of oral microbial colonization in ventilator-associated pneumonia. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 98(6):665-72,2004
4)Xu H,et al. High expression of ACE2 receptor of 2019-nCoV on the epithelial cells of oral mucosa. Int J Oral Sci.12(1),8. 2020.
5)Almirall J et al. New evidence of risk factors for community-acquired pneumonia: a population-based study. Eur Respir J. 31(6):1274-84, 2008.
6)Takeuchi H et al. Influences of Masticatory Function Recovery Combined with Health Guidance on Body Composition and Metabolic Parameters. Open Dent J 13: 124-136, 2019.
7)Wakai K et al. Tooth loss and intakes of nutrients and foods: a nationwide survey of Japanese dentists. Community Dent Oral Epidemiol. 38(1): 43-9, 2010.