「口腔機能低下症」って知っていますか?
- 2022/08/30
- 歯とお口の基礎知識
皆さんは「口腔機能低下症」という言葉を聞いたことがありますか?まだあまりなじみがないかもしれません。
でも、「この頃ちょっと食べ物が飲み込みにくくなった」「口の中が乾きやすくなった」といったようなことは、思い当たる節はありませんか?
そうした症状が、まさに「口腔機能低下症」に含まれるもの。とっても身近ながら、今一つよくわからない口腔機能低下症について、わかりやすくお伝えします。
いったいどんな症状なの?
そもそも口腔機能低下症というのは、いったいどんなものなのでしょうか?どんな症状が出るのでしょうか?
実は、一口に「口腔機能低下症」といっても、さまざまな症状があります。例えば・・・
以前と比べて、「食べ物が噛みづらい」「食べ物が口に残ってしまうようになってきた」「食事の時、むせやすくなった」「薬を飲みにくくなってきた」「口の中が乾く」「滑舌が悪くなってきた」「硬いものが食べにくい」「食事の時間が長くなってきた」といった症状が、口腔機能低下症の代表例です。
案外身近で、よくある症状のようにも感じられることでしょう。
こうした症状からわかるとおり、「口腔機能低下症」とは、口の中のさまざまな機能が低くなってきている症状の病気のことです。そう、口腔機能低下症は私たち誰もがかかりやすく、注意が必要なものなのです。
また、口腔機能低下症は、なにか具体的な症状のことのみを指すものではありません。上にあげた症状はともするとバラバラなものに見えますが、全体的にみて口の中の機能が下がってしまっている状態にあることをトータルにとらえ、それらをまとめて「口腔機能低下症」と言うのです。言葉のイメージで言うと、生活習慣病、と呼ぶ感じに近いかもしれません。
実は口腔機能低下症、2018年からこの病名がつけられ、歯科医院で保険での請求が可能になりました。こうした名前で認識されるようになったのは、歯科の世界でもかなり新しいものなのです。
そのため、まだ知られざる新たな病気のように感じられるかもしれませんが、そうではなく、広く多くの方に生じている口の中の機能低下をトータルに病気として捉えるようになったものだとご理解ください。
口腔機能低下症になる原因ってなに?
そうしますと気になるのは、口腔機能低下症を引き起こす原因です。症状も多岐にわたるため、原因もいろいろと考えられるのです。
まずいちばんの原因は「加齢」です。年齢を重ねると、口の中の「感覚」や「咀嚼」「飲み込み」「唾液の分泌」などが徐々に低下してきます。そうしたひとつひとつが、口腔機能低下症の症状を起こしていきます。
もちろん、虫歯や歯周病などで歯を失ったり、具合が悪くなったり、義歯が合っていなかったり、といったことも症状の原因になっていきます。日ごろの歯みがきなどのケアが行き届かないと、口の中の環境が悪くなっていきます。
全身のさまざまな病気によっても口の中の機能は低下しやすくなります。それ以外にも、何かの病気のために投与された薬の副作用や、栄養が行き届かない状態なども関係してきます。
つまり口の中の機能低下は、さまざまな要因が複合的に影響してきます。生活全体、自分の体調や健康管理といったものへのケアと、口腔機能へのケアは密接に結びついているのです。
油断禁物!口腔機能低下症が進むと・・・
でも、ただ口の中が乾きやすくなっただけでしょ、とか、滑舌が悪くなっただけでしょ、とか、思っていませんか?
口の中の機能が低下することは、決して軽く見てはいけません。
口腔機能低下症が進行すると、全身的な健康が損なわれていきます。そのままにしておくと、なにより食べることが楽しくなくなり、外出も楽しくなくなって人との交流も少なくなり、いっそう外出しなくなってしまいがちです。
歯が悪くなると、噛み応えのあるものが食べられなくなり、柔らかい炭水化物を多く摂る様になります。タンパク質を多く含む肉を食べなくなり、ひいては筋力が減り、体力も弱っていきます。筋肉が落ちると日常的な動作に支障をきたし、歩いたり、階段を上るのが辛くなり、外出もさらに減っていきます。
このように、お口が弱ってくることは、全身が弱ってくることに直結し、日常生活に支障をきたしてしまいかねないのです。口の中の機能低下があまりに進行してしまうと、もはや元に戻ることはできません。口腔機能低下症は自分が気が付かないうちに進行します。症状のある方は勿論ですが、症状のない方でも65歳を過ぎたら定期的な検査をして早め早めのケアをお薦めします。
ちょっとでも気になるようなら、歯医者さんで検査を受けよう
少しでも口の中の症状で気になることがあるようでしたら、ぜひ歯科医院で検査を受けましょう。
口腔機能低下症の症状は多岐にわたりトータルにとらえる必要があるため、検査も様々な項目で確認していきます。
どんなことをするのか、簡単にご紹介しましょう。
まずは口の中の衛生状態をチェック。「舌苔」とよばれる、舌の表面からはがれた垢の付いている量を測ります。
次は、口の中がどれくらい乾燥しているのかをチェック。口腔水分計で湿り気を測ったり、ガーゼを噛んでもらって唾液の量を測定したりします。
3つ目は、噛む力を測定。4つ目は、舌や唇の運動機能をみる検査をします。
さらに、舌圧と呼ばれる、舌と上あごとの間に作られる圧力を測ります。これが低下すると食べ物を舌でうまく送り込めなくなるからです。
6つ目は、咀嚼機能の検査。食べ物が上手に噛めているかを調べます。
そして最後に、飲み込みの検査。うまく食べ物を飲み込めるか、飲み込みに時間がかかっていないかどうかを調べます。
これら7つの検査のうち3つ以上に問題があるようであれば、口腔機能が低下している、という診断になります。
口腔機能低下を食い止める方策も、歯科医師と一緒に練りながら考えていきましょう。
検査によってケアすべきポイントが明確になれば、歯科治療だけでなく、食事の際の食べ物の選定や食事の仕方、食べる際の道具のチョイスなど、食全体を考えた栄養指導、生活指導をしてもらえるはずです。また運動指導も大事になってきます。歯科だけでフォローしきれないところは、管理栄養士や理学療法士、医師、介護支援専門員などと連携をとりながら進めていきます。
まずは歯医者さんを入り口にして、ともに考えながら、お口の機能低下をしっかりと防ぎ、回復を目指していきましょう。
神奈川県歯科医師会・相模原市歯科医師会会員
アキチ歯科医院 秋知明