歯が溶ける!?「酸蝕症」とは?
- 2023/02/07
- 歯とお口の基礎知識
すっぱいと感じる飲食物で歯が溶ける!?
近年、残存歯(現在歯)の増加にともない、むし歯や歯周病に続く第三の歯の疾患として酸蝕症が注目を集めています。
歯は想像以上に酸に弱く、実は私たちが「すっぱい」と感じる酸性度の高い飲食物に長く触れていると、いとも簡単に溶けてしまうのです。
歯の表面を被っているエナメル質は、リン酸カルシウムでできている人体で最も硬い組織です。ところが、強い酸に触れると化学反応を起こして分解し、溶けてしまいます。
エナメル質が溶けてしまうと、その下にある軟らかい象牙質がむき出しの状態になり、食べものを噛んだり歯みがきをしたりする時の摩擦でどんどんすり減ってしまいます。
こうした状態を放っておくと、冷たいものがしみる知覚過敏症になったり、むし歯が一気に進行したりするなど、さまざまなトラブルを引き起こすことになります。
この現象を「歯の酸蝕(さんしょく)」といい、酸蝕によって歯が病的に傷んでしまった状態を「酸蝕症」または「歯牙酸蝕症」と呼びます。
たとえば1日2回、歯が酸に触れる機会があり、口をゆすがずにいるとエナメル質が酸蝕症のリスクにさらされます。
酸蝕症にかかった歯には、次のような特徴がみられます。
・知覚過敏を起こして冷たいものがしみやすい
・歯全体が丸みを帯びる
・エナメル質が濁って見えたり、内部の象牙質が透けて見えたりする
・前歯の表面がスベスベしてツヤがある
・前歯の先端部分が透けており、ヒビが入ったり、欠けたり、ザラついたりする
・酸蝕により奥歯のすり減りが加速し、深い溝やへこみがみられる
日本人の4人に1人は酸蝕症
現在、このような酸蝕症がむし歯や歯周病に続く第三の歯の疾患と考えられています。
国内で15〜89歳の男女1,108名を対象に調査した結果、酸蝕症の罹患率は26.1%であり、国民のおよそ4人に1人に上ることがわかりました(2014年発表)。
ちなみに、欧州7カ国で15〜35才の男女3,187名を対象に調査した結果をみると、酸蝕症の罹患率は29.4%であり、およそ3人に1人と日本人より高率になっています(2013年発表)。
日本で酸蝕症の罹患率が増加している背景には、欧米型の食生活の定着に加え、健康志向から後述するような酸性度の高い飲食物などを好んで摂る方々が増えていることが挙げられます。
酸蝕症の原因は、体内から口のなかに酸が出てくることによる内因性のもの、酸性度の強い飲食物を口にするなど外因性のものの2つに分けられます。
内因性の病因としては、胃食道逆流症(GERD)、摂食障害(過食症、拒食嘔吐)、アルコール依存症などが指摘されます。
外因性の病因としては、酸性度の高い飲食物や医薬品、サプリメントなどの過剰摂取が考えられます。具体的には、次のような飲食物や医薬品、サプリメントが挙げられます(図)。
・みかんやグレープフルーツ、レモンなどの柑橘系の果物や果汁からつくられたジュース、梅干し
・ビタミンCなどを含む酸性のビタミン剤やサプリメント
・アスピリンなどの酸性の薬剤
・炭酸飲料、黒酢、栄養ドリンク、ワイン、スポーツ飲料
外因性の酸蝕症は、このほか塩酸や硫酸、硝酸など酸性のガスが発生する工場で働く方々、ワインの試飲をされているワインティスターの方々などにもみられます。
酸蝕症を防ぐための3つのポイント
私たちの口の中は、普段は中性のpH7前後に保たれています。しかし、飲食物や胃酸の影響で酸性度が高くなり、pH5.5以下になると歯は溶けやすくなります。
とはいうものの、酸性の飲食物は健康に良いとされている物も多く、まったく控えてしまうわけにもいきません。
酸蝕症を防ぐためには、
①酸性の飲食物を口にした後は水で口をゆすぐ
②酸性飲食物をだらだら食べたり飲んだりしない
③寝る前には酸性の飲食物を控える
といった対策が必要です。
就寝中は唾液の分泌が少なくなり、口のなかのpHが中性に戻りにくくなります。特にいびきをかく癖があると、口が乾いて酸性の溶液が残りやすくなるのです。
また、酸蝕症の進行を防ぐためには、酸性の飲食物を多量に摂った直後には歯みがきをしないことも意外に大切なポイントです。先述のように、酸性の飲食物をとった直後はエナメル質が柔らかくなっているため、30分程度時間を置くか、お水で洗口してから歯磨きをするようにしましょう。
歯は長年の酷使によって年齢を重ねるほど傷み、酸蝕の影響を受けやすくなっています。
なかでも口が乾きやすいという方は、歯を守る唾液の力が十分に働かなくなり、酸蝕症を発症する可能性が高くなると考えられます。
酸蝕症は、むし歯や歯周病に続く第三の歯の疾患で、現代の生活習慣病です。
定期的に歯科医院を受診し、歯の健康状態をチェックしてもらいましょう。
<参考文献>
北迫佑一著 「知る・診る・対応する 酸蝕症」 クインテッセンス出版 2017