インプラント治療は誰でも受けられますか?その1
- 2022/08/31
- 歯とお口の基礎知識
場合によってはお勧めできないことも
インプラント治療は、手術であごの骨にインプラント体(人工歯根)と呼ばれる金属製の土台を埋め込み、人工の歯(上部構造体)を取り付けるというものです(図1)。
最近、インターネットや雑誌でインプラント治療を扱うクリニックの広告などを目にする機会が増え、私自身も患者さんから「インプラント治療を受けてみたいのだけど」と相談を受けることが多くなりました。
確かにインプラント治療は成功すればメリットの多い治療ですが、残念ながら誰でも受けられるというわけではありません。
インプラント治療の成功を妨げる3つのリスクファクター
患者さんがインプラント治療を安全に受け、あごの骨に埋め込まれたインプラント体が長期間良好に機能するためには、術前の検査で患者さんの全身状態やお口のなかの状態を正確に把握し、評価することが必要不可欠です。
つまり、患者さんの全身状態やお口のなかの状態にインプラント治療の成功を妨げるリスクファクターが指摘される場合、この治療は受けられないということになります。
その際、考慮すべきリスクファクターは以下の3項目に分けられます1)。
1.外科的手術に対するリスクファクター
2.インプラント体と骨の結合を維持するうえでのリスクファクター
3.上部構造(インプラントの被せ物)の製作と維持に対するリスクファクター
このような3つのリスクファクターを回避するためには、患者さんの年齢や持病、服薬している治療薬などに注目してインプラント治療が適しているかどうかを判断することがきわめて大切です。
年齢と持病によっては治療が受けられないことも
患者さんの年齢については、主に次の2つのことを重視する必要があります。
まず大切なことは、あごの骨の成長が止まってからインプラント治療を受けるということです。インプラント体を埋め込んだあとにあごの骨が発育すると、生まれつきの歯とインプラントの間にズレを生じる可能性があります。
このため、あごの骨の成長が止まったことを確認し、インプラント治療を行っても不具合が生じないかどうかを慎重に検討する必要があるのです。
成長が止まる時期は個人差が大きいのですが、年齢に伴う身体の発育状態を示す「スキャモンの発育曲線2)」を参考にすると、およそ20歳ごろと考えられます
したがって、インプラント治療を安全に受けられるのは20歳になってからということになります。
一方、高齢になるにしたがって生活習慣病などの持病が増えることも考えておく必要があります。
定期的に健康診断を受け、かかりつけのお医者さんの指示通りに服薬や食事療法、運動療法を行うなど持病のコントロールができていれば、安全にインプラント治療を受けられることが多いといえます。
しかし、ご自身では健康に問題ないと思っていても、定期的に健康診断を受けていない場合、術前の血液検査などで病気が見つかることも少なくありません。
実際、鶴見大学口腔顎顔面インプラント科で、インプラント治療を希望される患者さんに術前の血液検査を行なったところ、がんや糖尿病などの病気が発見されたことがありました。
このため、インプラント治療を希望される方は、しっかりと全身的な術前検査を受けることをお勧めいたします。
次回:インプラント治療は誰でも受けられますか?その2
神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員
加藤デンタルクリニック 加藤道夫
参考文献
1) 口腔インプラント学実習書 公益社団法人 日本口腔インプラント学会 永末書店 2014: 5-9
2) Implant use in growing patients. Treatment planning concerns.Cronin RJ and Oesterle LJ:Dent Clin North Am, 42: 1-34, 1998.Clin Oral Implants Res. 2016 Feb;27(2):e38-46.