医療を受ける前に知っておいていただきたいこと 日本の社会保障制度に正しい理解を
- 2022/09/22
- 歯とお口の基礎知識
日本の社会保障制度に正しい理解を
社会保障制度の問題点が浮き彫りに
日本の社会保障制度は、社会保険方式でありながら制度にかかる総額の3割を税金でまかない、さらに人口増加を前提とした賦課方式をとっています(図1-2)。
このため、昨今のような少子高齢化をともなう人口減少局面では、制度を維持するのが難しいと懸念されています(図3)。
図1 日本の社会保障のしくみ
厚生労働省ホームページ
図2 社会保障の給付と負担の現状
厚生労働省ホームページ
図3 社会保証給付費の推移
厚生労働省ホームページ
事実、毎年50兆円にもおよぶ不足分は、次の世代に転嫁され続けており、世代間の不公平は否めません(図4-5)。
たとえば、73歳の方々は、ご自身で支払った社会保障費より3,780万円多い給付を受けます。一方、13歳のお子さんたちは、ご自身が給付を受ける額より3,730万円も多い社会保障費を支払うことになるのです。
このことは社会保障制度の一部である国民医療費においても同様であり、国民が支払う負担額と保険料でまかないきれない不足分は、次の世代に転嫁され続けています。
図4 社会保障収支差の推移
図5 社会保障制度の世代間損得勘定
鈴木亘 学習院大学経済学部教授
世界最高水準の医療を次世代に受け継ぐために
日本の医療は世界最高水準にありますが1)、医療者、患者さんなど医療にかかわる当事者の満足度は著しく低い2)とされています。
その背景には、次のような問題点が指摘されています。
- 1. 医療費の支払いが、国の徴収との再分配を介していること(図6)
- 2. 医療者と患者さん、ご家族とのインフォームドコンセントに関する法的責任が医療者側だけにあること3)
こうした問題点は、医療にかかわる当事者同士の関係が必ずしも対等ではなく、一口にいえば患者さんは庇護的であり、医療者は犠牲的であることに起因しているようです。
オバマ政権のもとで日本の医療保険制度を研究したヒラリー元国務長官も、「日本の医療保険制度は、医療者の聖人的な自己犠牲によって維持されている」と指摘しています。
図6 医療費のしくみ
このような医療保険制度を含めた社会保障制度の問題点は、いずれマクロ経済学的あるいは政治的手法によって対策が講じられるでしょう。
そのことにより、医療者の犠牲的な働きかたが改善され、国民の庇護性はより強くなるかもしれません。
こうした状況のもと、国民が正しいインフォームドコンセントの上に成り立つ適切な医療を受け、さらにそれを次世代に引き継いて行くためには、医療に対する正しい理解が不可欠です。
とはいえ、医療は専門性の高い分野であるため、一般の人々が正しい知識を得るのは容易とはいえません。
医療者向けに書かれた専門書を手にすることは少ないでしょうし、無償で提供されるインターネット上の情報には、商業主義にゆがめられ、客観性を欠いた不正確なものも少なくありません。
このサイトでは、医療者が多くの患者さんに学んで積み上げたエビデンス(科学的根拠)にもとづき、一般の人々が適切な歯科医療を受けるために必要な情報をわかりやすくお伝えすべく努めてまいります。
皆さまには、先述のような社会保障制度の問題点をご理解いただいた上、医療を受けるときは医療者の説明をよく聞かれ、受けた医療を大切にされるよう心がけていただきたいと切に願っています。
参考文献
- 1) Healthcare Access and Quality Index based on mortality from causes amenable to personal health care in 195 countries and territories, 1990–2015: a novel analysis from the Global Burden of Disease Study 2015, The Lancet Vol390 No.10091, p231-266, July 2017.
- 2) The Future Health Index:How can connected care help answer the Global health challenge?, NYSE: PHG, AEX: PHIA, https://www.philips.co.jp/content/corporate/ja_JP/about/news/archive/standard/about/news/press/2016/20160609_Philips_medical_challenge.html
- 3) 医療法第1条の4第2項
神奈川県歯科医師会・秦野伊勢原歯科医師会会員
ハート歯科 添田博充