お子さんの歯並びを治すため 床矯正という治療を勧められたら

「乳歯の代わりに生えてきた永久歯の歯並びが悪くて心配」
「デコボコした歯並びを治すため、床矯正(しょうきょうせい)という治療を勧められたんだけど」
 お子さんの歯並びが不ぞろいなのを心配し、歯列矯正のために歯科医院を受診した保護者の皆さんのなかには、床矯正という治療法を勧められた方もおられることでしょう。
床矯正とは、取り外しができる床矯正装置を使ってあごを広げ、デコボコした歯並びを矯正しようという治療法です(図1)。
床矯正は保険診療外の治療であるため、費用も高額になることから、私自身、他院で勧められた保護者の皆さんからセカンドオピニオンとして相談を受けることが多いです。
結論から申し上げますと、床矯正は患者さんの条件によってうまくいくこともありますが、期待通りの効果が得られるケースは必ずしも多くないのが実情です。


図1

条件によっては期待通りの結果が得られないことも

先ほど、「床矯正装置を使ってあごを広げる」と申しましたが、実はあごの骨格自体は床矯正の装置では広がりません。
歯は歯槽骨という骨に埋まっており、この歯槽骨は上顎や下顎のベースとなる骨に歯列に沿ってU字型にのっかっています。
歯が内側に向かって倒れているような場合、歯槽骨も歯と一緒に倒れ込んでいる場合が多く、床矯正装置を用いることで倒れ込んでいる歯とともに歯列を矯正することは可能です。
 しかし、床矯正はあごの骨格自体を広げる治療法ではないため、過度に行えば歯を骨の外に追いやるような結果にもなりかねません。その場合、歯茎が下がって歯根が露出したり、歯の神経が死んでしまったりするおそれがあります。
 また、床矯正では歯列を横に広げるだけでなく前方に広げることもあります。この場合、前歯がどんどん前に出てきますので、歯並びはきれいになったものの、出っ歯になったり口元が突出したりという不具合が起こることも危惧されます。
このようなことが起きてしまうと、せっかくお金と時間をかけて床矯正治療を行っても、むしろ悪い結果を招いてしまうということになります。

あごの幅を骨格ごと拡大する急速拡大装置を併用して治療

床矯正装置を用いて安定した治療結果を得るためには、個々の患者さんのあごの骨格の大きさなどの条件を十分に見きわめること、あわせて舌や唇の習癖(くせ)を改善することがとても重要です。
したがって、多くの矯正専門医は床矯正装置だけで歯列を矯正するという治療法はとっていません。
あごの幅を骨格ごと拡大する場合、矯正専門医は急速拡大装置という装置を使うことがあります(図2)。これは、上顎の口蓋にある骨が縫合した部分を強い力で開く方法です。
まだあごの骨がやわらかいうちに施術する必要があるのですが、何歳までこの方法が適用できるかについては意見が分かれるところです。


図2 急速拡大装置

急速拡大装置で広げられるのは上あごの骨だけ

急速拡大装置はあごの骨に強い力を加えるため、永久歯を介して力をかける必要があります。私自身は、あごの骨を広げることができる年齢を勘案すると、第一小臼歯が生えた小学校高学年ごろに行うのがよいのではないかと考えています。
 しかし、このような急速拡大装置を使っても広がるのは上あごだけであり、下あごを広げることはできないというのは歯科矯正学の教科書にも載っている基本中の基本です。
このため、下あごが普通で上あごが小さい場合や下あごが大きく上あごが普通の場合などは、上あごを下あごに合わせて広げることが可能かもしれません。
ところが、下あごも上あごも普通の大きさの場合、上あごを過度に広げてしまうと下あごの骨格とアンバランスになり、噛み合わせなどにも悪い影響がおよぶおそれがあります。

歯医者さんからのメッセージ

 私が、床矯正を勧められた患者さんに申し上げていることは、次のようなことです。

「もし、患者さんのあごが小さければあごを広げます。そうでなければ、歯をきれいに並べるために標準値を越えてまであごを大きくすることはしません。
このような場合、歯並びがデコボコしている原因があごにあるのではなく歯にありますので、歯を何本か少しづつ削ったり、抜歯をしたりして解決するのがよいと思います」
多くの保護者の方はこの説明に納得していただけます。
これは、歯並びが悪くなる原因にアプローチして治療をするということですので、身体のことを考えればごく当然のお話だと思うのです。
 床矯正という治療を勧められた患者さんや保護者の方々は、主治医との適切なインフォームド・コンセントのもと、このようなことを十分に理解され、納得したうえで治療を受けることをお勧めします。

参考:公益社団法人日本臨床矯正歯科医会 本会の矯正歯科治療に関する考え方
http://www.jpao.jp/10orthodontic-dentistry/1020thinking/

神奈川県歯科医師会・秦野伊勢原歯科医師会会員
高橋矯正歯科医院 高橋滋樹

小児歯科特集

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