がん治療による口のトラブル

かかりつけの歯科医に相談を

 がんは、1981年以降、日本人の死因の第1位を占め続けています。日本人の2人に1人が生涯のうちにがんになり、3人に1人はがんで亡くなるといわれています。

 かつては「不治の病」といわれていたがんですが、最近は医療の進歩により「治る病気」「共存できる病気」へとイメージが一新しました。
 その背景としては、ロボット手術や重粒子線治療、分子標的薬などの登場により、有効かつ副作用の少ない治療ができるようになったことが挙げられます。

 しかしながら、すべてのがんに対して、このような治療が行えるというわけではなく、副作用や合併症の対策はいまなお重要な課題となっています。
 ここでは、歯科医の立場から、がん治療の副作用による口のトラブル対策についてお話しましょう。

抗がん剤による口のトラブルは口内炎、歯痛、味覚異常、口の乾き

 がんの治療法には、手術療法、薬物療法(化学療法)、放射線療法の3種類があり、「3大療法」と呼ばれています。
 以前は、がんに侵された病巣を外科手術によって切除する手術療法が中心でした。
 近年は抗がん剤によってがん細胞を死滅させる薬物療法、がんの病巣部に放射線を照射してがん細胞を死滅させる、局所療法の放射線療法が進歩してきました。

 従来の抗がん剤の副作用による口のトラブルとしては、1)口内炎、2)歯痛、3)味覚の異常、4)口腔乾燥症が挙げられます。

 口内炎は、抗がん剤の投与から通常1週間~10日くらいで起こります。口内炎を発症した人の約50%が、重症の口内炎のために抗がん剤の減量や治療スケジュールの変更を余儀なくされるなど、がん治療そのものに影響を受けています。
 また、抗がん剤の投与を受けると免疫力が低下し、それまで症状のなかったむし歯が急激に悪化して痛みや腫れが起こることがあります。
 このほか、カビ(真菌)の一種であるカンジダやヘルペスウィルスなどによる感染症も起こりやすくなります。 

がん治療を有効かつ安全行うためにもかかりつけの歯科医師を

 一方、口や咽頭部のがんで口の周辺に放射線を照射する治療を行う場合は、ほぼ全員の口のなかに何らかの副作用が現われます。
 もっとも重大な副作用は口内炎です。また、放射線によって唾液の量が減るため、口のなかがガサガサと不快になったり、味覚がなくなったり、汚れがこびりついて口のなかの細菌が増えやすくなるため、むし歯ができやすくなったりします。
 このほか、放射線が当たったあごの骨はちょっとしたことがきっかけで感染を起こして壊死することがあります。こうした状態を顎骨壊死(がっこつえし)と呼び、抜歯を余儀なくされることもあります。
 このような顎骨壊死のリスクは、放射線治療後、何年たってもほとんど変わらないといわれています。

 がん治療の副作用によるこのような口や歯のトラブルは、治療を開始して口のトラブルが起きてから対応するのでは間に合いません。治療が始まる前に口のなかを良好に整える必要があります。
 がん治療前に歯科医院を受診し、治療を受けましょう。治療をする必要がなくても、歯石やブラークを除去など口の掃除をしてきれいにしましょう。

 一方、抗がん剤の投与や口の周囲への放射線治療によって起こる口内炎は、防ぐことがむずかしいのが実情です。
 起きてしまった口内炎に対しては、1)口の中をきれいにして感染を予防する、2)口のなかかが唾液で潤った状態に維持し、乾燥させないようにする、3)痛みの程度に応じた鎮痛薬を適切に使うといったことが、対策の基本になります。

 がん治療により口の副作用が出た場合はがまんせず、がんの主治医と相談の上、歯科を受診してください。がんの治療を安全に苦痛なく乗り越えるためにも、「口からおいしく食べること」が大事です。
 2人に1人は生涯のうちにがんになるといわれる現在、がん治療による口のトラブルに対応するためにも、かかりつけの歯科医院をもち、定期的に通院するのが理想です。

参考文献

日本歯科医師会 歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020「がん治療と口のケア-がん治療を乗り越えるために―」
全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト 第一版

神奈川県歯科医師会・厚木歯科医師会会員
鍵和田歯科医院 鍵和田信行

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