むし歯は予防できる!! 歯の健康を守る4つの心がけ

執筆者
神奈川県歯科医師会会員・川崎市歯科医師会会員 水田 康裕

お口の細菌だけではむし歯はできません

皆さんは、そもそもどうしてむし歯ができるのか、ご存じでしょうか。「知ってるわよ、お口のなかにむし歯の原因となる細菌がいるからでしょう?」そんな声が聞こえてきそうです。確かに、お口のなかにむし歯の原因となる細菌(口腔内細菌)が存在しなければ、むし歯に悩まされることはありません。しかし、口腔内細菌が存在するからといって、必ずしもむし歯になるというわけではないのです。つまり、口腔内細菌はむし歯が発生するための必要条件であって、そのほかの条件が揃わなければむし歯にはならないということです。むし歯の発生には、次の4つの要因が関わっています。

1.病因(むし歯の原因となる口腔内細菌群の存在)

2.宿主要因(口腔内細菌が寄生する側の私たちの歯や唾液)

3.食事的要因(口腔内細菌の栄養となる糖質など)

4.時間的要因

むし歯は、実はこれらの要因がすべて揃ったときに初めて発生するのです。

 

むし歯ができるのは酸の産生が唾液の自浄作用を上回ったとき

少し専門的な話になりますが、むし歯が発生するメカニズムについてご説明しましょう。口腔内細菌が歯の表面に付着し、繁殖すると「歯垢」となります。歯垢は口腔内細菌のかたまりです。歯垢は多量の酸を産生し、歯の主成分である「ハイドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウム)」を溶かしてしまいます。このことを「脱灰(だっかい)」と呼びます。脱灰が進むと歯の表面が白くにごり、やがてむし歯になります。一方、唾液には口腔内細菌の繁殖をおさえる自浄作用があります。このような唾液のはたらきによって酸の産生が停止し、口のなかのペーハー(pH)が酸性から中性に変わります。こうして、いったん口のなかに溶け出したハイドロキシアパタイトが、再び歯に戻って結晶化することを「再石灰化」と呼びます。歯の表面ではこのような脱灰と再石灰化が繰り返されており、このような動的平衡状態が保たれている限り、むし歯が発生することはありません。しかし、歯垢がたまって口腔内細菌が繁殖するまま放置したり、糖質を多く含む食品を摂取する回数や量が過剰になったりすると、一気に多量の酸が産生され、こうした動的平衡状態が崩れます。つまりは、口腔内細菌による酸の産生が唾液の自浄作用を上回る状態になると、脱灰が進む一方で石灰化が阻害され、歯が溶かされてむし歯が発生するということです。

 

プラークコントロール+フッ化物の応用+糖質制限

このようなむし歯の発生要因とメカニズムを踏まえ、皆さんにはぜひとも次のようなことを心がけ、予防に努めていただきたいと思います。まず、病因となるむし歯の原因菌をできるかぎり減少させることが大切です。そのための手段としては、ブラッシング(歯ブラシ)、フロス、歯間ブラシ、フッ化物洗口、専門家による歯口清掃などが挙げられます。いずれも歯とお口を清潔に保ち、歯垢がたまらないようにするための手段であり、これらは「プラークコントロール」と総称されています。もう1つ大切なことは、宿主要因である歯の抵抗力を高めることです。具体的な手段としては、フッ化物(フッ素)の応用が挙げられます。フッ化物を配合した歯みがき剤を使用したり、歯科医院で歯の表面にフッ化物を塗布したり(フッ化物歯面塗布)、フッ化物で口をゆすいだり(フッ化物洗口)することで、むし歯の予防効果が期待できると考えられています。また、食事的要因への対策としては、口腔内細菌の栄養(エサ)となる糖質を多く含む甘いお菓子やジュースなどを摂りすぎないようにすることが大切です。時間的要因としては、糖質を多く含む食品が口のなかにとどまる時間をできるだけ短くする工夫をしていただきたいと思います。その意味では、保育園や幼稚園などで指導されている「何か食べたらブクブクうがい」という標語は理にかなっているといえるでしょう。お子さまの歯が丈夫に育つためには、フッ化物を応用すること、糖質を多く含む飲食物の摂取を控えることがきわめて重要です。

 

フッ化物がむし歯の予防に役立つ理由

 フッ化物には、次のようなむし歯の予防効果が期待できます。

耐酸性の増強:歯のエナメル質に含まれるハイドロキシアパタイトの結晶が、フッ素の関与で耐酸性のあるフルオロアパタイトの結晶に置き換わることによって歯質が強化されます。

再石灰化の促進:エナメル質が脱灰して生じた初期のむし歯は、唾液に含まれるハイドロキシアパタイトが再度エナメル質に取り込まれることによって再石灰化されます。フッ化物には、この作用を促進するはたらきがあります。

酸産生の抑制と歯垢形成の抑制:フッ化物には、口腔環境に対して抗酵素作用と抗菌作用を示し、酸の産生を抑制するはたらきがあります。世界的にみると、米国、オーストラリア、ブラジル、香港、アイルランド、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、英国など多くの国々や地域では、むし歯を予防するために飲料水中のフッ化物濃度を調整する「水道水フロリデーション」が行われています。こうした国々や地域では、むし歯の有病率を半分以下にするという効果が確認されています。しかし、日本では水道水フロリデーションは実施されていないため、フッ化物を配合した歯みがき剤の使用に加え、歯科医院でフッ化物洗口やフッ化物歯面塗布などを併用することが重要とされています。

 

想像以上にすごい唾液のむし歯予防効果!!

 次に、唾液がむし歯予防に効果的な理由をご紹介しましょう。

抗菌作用:さまざまな抗菌物質により細菌の発育を抑制する作用

免疫作用:唾液中には、口腔内細菌に対して防御作用を示す免疫グロブリン(IgA、IgGなど)が含まれています

歯の保護作用:唾液中のたんぱく質などにより歯の表面にペリクル(被膜)を形成し、歯を保護します

緩衝作用:酸性にかたよった口腔内の環境を中性に戻す作用

希釈・洗浄作用:食べかすや細菌などをうすめて洗い流す作用

歯の再石灰化作用:脱灰して失われたカルシウムやリンを補い、再び石灰化させる作用

このように、唾液はむし歯予防に役立つさまざまな作用が期待されますが、加齢とともに分泌量が減ったり、枯渇したり、ストレスや薬の副作用などにより出にくくなることがあります。唾液の分泌をうながすには、よく噛んで食事をすること、適度に水分を取ることが大事です。あわせて、日ごろから唾液腺と呼ばれる耳下腺や顎下腺、舌下腺などのマッサージを心がけるとよいでしょう(図)

東京都保健医療局パンフレット「口腔機能の維持・向上」より

 

むし歯予防のための4つのポイント

むし歯にならないようにするには、これまで述べたように口腔ケアや生活習慣の改善を心がけることが大切です。最後に、そのための4つのポイントをお示しておきましょう。

1.正しい歯みがき方法を身につけましょう

2.食習慣を改善しましょう

3.フッ化物の応用を心がけましょう

4.かかりつけの歯科医院で定期健診を受けましょう

 

人生100年時代、わたしたち歯科医は、むし歯を防いで心身ともにすこやかに、あなたらしく人生を楽しんでいただくためのお手伝いをしたいと願っています。

1)厚生労働省e-ヘルスネット「水道水フロリデーション」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-010.html

 

執筆者情報
水田 康裕
神奈川県歯科医師会会員・川崎市歯科医師会会員
やすひろ歯科医院

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