令和6年能登半島地震への災害歯科支援チームの派遣

地震発生、災害歯科支援チームの出動決定

 令和6年1月1日16時10分、石川県能登半島の穴水町から北東42kmの地点でマグニチュード7.6の地震が発生しました。この地震により、最大震度7が石川県輪島市門前町走出と羽咋郡志賀町香能で観測されました。この災害に対し、日本歯科医師会は1月13日に各都道府県歯科医師会に対して、災害歯科支援チームの派遣の依頼を発出しました。これを受けて、神奈川県歯科医師会はJDAT (Japan Dental Alliance Team:日本災害歯科支援チーム)の編成を行い、2月1日から5日までの期間で石川県輪島市門前町への派遣を行いました。災害地での歯科診療は、応急歯科処置と共に誤嚥性肺炎の予防の観点からとても重要な活動です。

 

災害歯科支援チーム派遣準備

 日本歯科医師会からの依頼に応じて、神奈川県歯科医師会は神奈川県JDATの編成を行いました。神奈川県JDATチームは以下の通り構成されました。

・武田宇央(神奈川県歯科医師会災害対策委員会委員長)
・田中国継(神奈川県歯科医師会警察歯科委員会委員長)
・川滝統一(神奈川県歯科医師会災害対策委員会副委員長)
・吉田武史(神奈川県歯科医師会災害歯科保健医療アドバンス研修会修了者)

 2月1日と5日は移動日とし、2月2日から4日までを活動日と設定しました。移動に際しては、個人所有の自家用車を使用して現地まで陸路でアクセスする計画としました。自家用車運転にあたっては、同乗者全員の自動車保険「他車運転特約」等の確認を行い、交代での運転を予定しました。現地での口腔ケアを主体とした活動に必要な資器材は各自が準備しました。

 2月1日(木)15時過ぎ、神奈川県JDATチームは石川県歯科医師会会館に到着しました。到着後、チームのメンバーと石川県歯科医師会会長、副会長、専務理事、事務局長と面会し、今後の活動についてのミーティングを行いました。ミーティング終了後は災害対策本部にて必要な物資の調達を行いました。

 

2月2日(金)の活動準備

 朝10時の集合場所である輪島市門前総合支所に向け、神奈川県JDATチームは金沢市のホテルを6時に出発しました。到着後は現地開業の歯科医師と合流、そして災害対策本部で保健師とのミーティングを行いました。また、災害対策本部近隣の特別養護老人ホームから口腔清掃用具の搬入の依頼があったため、物資の運搬を行いました。

 

2月2日(金)矢徳集会所での活動

 矢徳集会所は避難所として開所当初は約50人が滞在していましたが、人数が徐々に減り当日訪問時には4人の滞在でした。輪島市ではほぼ全域が断水状態でしたが、矢徳集会所は独自に山から水を引いていたため、生活用水には不自由がなく、飲料水の備蓄も充足していました。口腔清掃用具は5日前に搬入されており、充分な量があるものの、箱に収められたままの状態でした。
 また、下の入れ歯の紛失による食事困難や上の入れ歯の清掃不良をおこして極めて誤嚥性肺炎を生じやすい状況の避難者の方へ口腔ケアおよび清掃用具の使用方法の指導を行いました。また、かかりつけ歯科医が1月29日から一部の診療を再開していることから、受診するように指示し、担当歯科医にも事後に申し送りを行いました。

 

餅田基幹集会施設での活動

 餅田基幹集会施設は避難所として開所当初は約70名が滞在していましたが、当日訪問時は12名の滞在でした。餅田基幹集会施設も矢徳集会所と同様に山から水を引いているため、生活用水および飲料水は充分に確保されていました。
 現地歯科医師が5日前に訪問し、口腔清掃道具を搬入したとのことでした。口腔清掃道具は洗面所前に口腔衛生指導ポスターと共に整頓されていました。また、一部の滞在者から、普段から使い慣れている歯科ブラシやデンタルフロス、入れ歯安定剤が欲しいとの要望もありました。
入れ歯が合っていない避難者も認められたため、口腔ケアおよび入れ歯の洗浄を行い、かかりつけ歯科医への受診を指示しました。また、活動後には担当歯科医への申し送りも行いました。

 

2月3日(土)の活動準備

 現地対策本部で、現地で開業している歯科医師も交えてミーティングを行いました。現地開業の歯科医師の先導のもと、該当地域への移動が行われることとなりました。
2月3日(土)の訪問予定は、深田集会所、ライフサービス高橋、広岡住宅集会所です。

 

深田集会所での活動

 現在の避難登録者数は35名ですが、訪問時には10人程度が滞在していました。その中の、7人に対して歯科保健医療救護活動を行いました。対象者は中学生から75歳以上の高齢者まで様々でしたが、全員比較的に口腔清掃状態は良好でした。
 中学生が使用している歯ブラシのサイズが合っていなかったため、適切なサイズの指導を行い、夜間に入れ歯を装着している方にも使用方法の指導を行いました。また、搬入された口腔清掃用具が箱のまま放置されていたため、中身を管理者と確認し、使用方法の説明も行いました。
 深田集会所は2月2日に訪問した特別養護老人ホームの裏に位置しており、現地対策本部からも近いことや、本県チーム訪問時にはJMAT(日本医師会災害医療チーム)が診察していたことから、医療提供状況は良好であると推察されました。

 

ライフサービス高橋での活動

 訪問時、管理者と他の1人のみの滞在で、明日には閉所する予定とのことでした。活動内容は挨拶のみとしました。

 

広岡住宅集会所での活動

 現在の避難登録者数は15名ですが、訪問時の滞在者は7~8名程度でした。その中の5人に対して歯科保健医療救護活動を行いました。
滞在者は子供が多く、1歳児においては日常的に口腔清掃が行われていなかったため、保護者に口腔清掃の必要性と方法を指導しました。他の小児においても清掃状況は良好ではなく、むし歯もありました。
 集会所には生活用水および飲料水用のポリタンクが設置されていますが、小児だけでは使用が困難であるように思われました。また、施設では自由にお菓子を取れる状態にあり、食事時間なども規則的ではないとのことでした。
 71歳の男性には歯科疾患が認められましたが、現在かかりつけ歯科医にて対応中とのことでしたので、そのまま継続するように指示しました。

 

ポリタンクから水を紙コップに入れて口腔清掃

2月4日(土)の出来事

 午前6時半に輪島市門前総合支所に向けて駐車場を出発しようとしたところ、自動車右前輪のパンクが確認されました。安全性を考慮した結果、2月4日の行程は中止となりました。
 自動車修理が完了した後、石川県歯科医師会館を訪問し、自動車故障の説明や今回の活動内容の報告を行いました。また、未使用の物品の返却も行い、神奈川県JDATチーム活動を終了しました。

 

災害派遣活動における振り返りと改善の提案

1.情報公開と先遣隊(現地の歯科医師会)の活動
 ・事前の情報には、対策本部での宿泊や食事は自己完結とされていましたが、実際には先遣隊が金沢市街から現地まで往復していました。
 ・先遣隊の活動内容が早く共有されていれば、より効果的な対応が可能であったかもしれません。

2.支援物資の在庫と避難所の名称
 ・支援物資の在庫には、事前に把握されていなかったものが本部に大量にありました。
 ・避難所の名称が地域名を利用した俗称であったため、地図やカーナビゲーションシステムでの検索が困難でした。

3.口腔清掃用具の搬入
 ・避難所では口腔清掃用具の数は充実していましたが、使い慣れていないものや液体ハミガキの使用が難しい様でした。
 ・物品の搬入だけでなく、使用方法の説明や適切な配置も重要であると考えられました。

段ボールに入ったままの状態

4.危機管理と交通
 ・最終日のパンクや悪路での運転に関する慎重さの欠如が指摘されました。
 ・派遣中も余震活動が続いており、危険が無くなったわけではないことに注意が必要でした。

5.交通手段の見直しと安全性の確保
 ・物品の調達やレンタカーの配備が進んでおり、今後は電車での移動を検討することが提案されました。
 ・安全性を確保しつつ、活動効率を向上させるための交通手段の選択が必要でした。

 

結び

 今後の災害派遣活動においては、情報共有の改善や適切な物資管理、安全な交通手段の選択など、様々な課題に対する対応が求められます。この活動を通じて得られた教訓を生かし、より効果的な災害支援が実現されることを期待しています。

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