親知らずは必ず抜かなきゃダメ? 抜歯したほうがよい場合とその理由

執筆者
神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会 会員 真下 純一

親知らず(智歯)とは、前から数えて8番目の歯のことです(図1)。上下左右に1本ずつ、通常4本の親知らずがあり、10代後半に生えてくるケースがほとんどですが、生えてこない人もいます。

親知らずは、必ずしも抜歯しなければならないというものではありません。歯科医と相談し、痛みや腫れなどの症状があり、今後のトラブルの原因となりうる場合には抜歯が望ましいでしょう。

親知らずの生えかたや口腔内環境などを総合的に判断することが重要です。

ここでは、親知らずを抜歯したほうがよいと考えられる場合とその理由、抜歯のしかたなどを中心にQ&A形式で解説します。

親知らず図1

Q 親知らずの生えかたに違いはありますか?

親知らずの生えかたは次の3種類に大別され、それぞれ対処のしかたが異なります。

●まっすぐ生えている
 親知らずがまっすぐ生えていて、ほかの歯と同じようにかみ合わせも機能しており、ブラッシングも十分できていれば問題となることはあまりありません。

●歯ぐきから一部だけ見えている
 親知らずが斜めに生え、歯ぐきから一部分だけ見えている状態はトラブルが生じやすいと考えられます(図2)。
完全に生えているわけではないので歯垢や汚れがたまりやすくなり、むし歯や歯周病の原因になります。親知らずの周辺の衛生状態が悪くなると、体調不良などで免疫が低下したときに腫れや痛みが生じることがあります。

親知らず図2

●歯ぐきに完全に埋まっている
 親知らずが歯ぐきのなかに完全に埋まっている場合、細菌感染による炎症を起こすリスクは低いと考えられます。このような場合は、あえて抜歯する必要はありません。痛みを感じず、口腔内やあごに悪影響を与えていないのであれば、そのまま様子をみます。
しかし、埋まっている親知らずの周囲に、まれに嚢胞(のうほう:膿がたまった袋状のかたまり)ができることがあります。嚢胞は痛みを伴わないことがある一方で、骨を溶かする恐れがあるため、レントゲンでの確認が必要です。

 

Q 親知らずを抜歯したほうがいいのはどういう状態ですか?

主にむし歯や歯周病の恐れがあるときです。特に親知らずが斜めに生えていると、ほかの歯との間に隙間ができて歯みがきが上手に行えないことが多く、親知らずとその周辺の歯がむし歯になったり歯周病になったりするリスクも高まります。
このような場合は、親知らずの抜歯が望ましいでしょう。

 

Q なぜ親知らずのまわりが痛くなったり、腫れたりするのですか?

歯と歯肉の隙間から細菌が入り込んで感染を起こすため、痛みや腫れが生じます。親知らずが歯ぐきに完全に埋まっていても、細菌が入り込む隙間がある場合は痛みや腫れを引き起こすことがあります。

 

Q 腫れや痛みがあるのですぐに親知らずを抜いてほしいです。すぐに抜けますか?

腫れや痛みがある状態は細菌感染による炎症が起きています。炎症がある状態で抜歯をすると麻酔が効きにくく、抜歯後の炎症がさらに強くなるので抜歯はできません。
このような場合、まずは歯科医師が処方した抗生物質を服用し、炎症をおさえてから抜歯を行うのが望ましいといえます。

 

Q 親知らずをそのままにしておくと、歯ならびが悪くなることはありますか?

親知らずによる歯ならびへの影響は、まだ医学的には証明されていません。
もともと歯ならびがきれいだったのに、年齢とともに徐々に「前歯の向きが変わってきた」「歯ならびがデコボコになってきた」という方は、歯科医院で歯周炎のメインテナンスの相談をするとともに親知らずの状態を確認してもらいましょう。
ただし、親知らずを抜歯しただけでは歯の向きや歯ならびは元には戻りません。

 

Q 抜歯後に腫れたり痛んだりしますか?

親知らずの抜歯は身体の外からの侵襲(しんしゅう:身体への負担、ダメージ)を伴う外科手術です。身体は侵襲に対して治ろう、守ろうと反応します。そのとき身体は生体防御反応として炎症反応を起こします。
炎症反応とは、発赤(ほっせき)、腫脹(しゅちょう)、発熱、疼痛(とうつう)、機能障害を特徴とする生体反応です。身体は傷を治すために炎症反応を起こします。抜歯後に腫れたり、熱っぽくなったり、痛みを感じたりするのは術後の正常な反応なのです。

 

抜歯Q 親知らずが斜めに生え、歯ぐきから一部だけ見えている場合、どうやって抜くの?

このような場合、1)局所麻酔をする、2)歯ぐきを切開する、3)歯槽骨(しそうこつ:歯の周りの骨)を一部削り、歯も削って細かく分割する、4)分割した歯を抜く、5)抜歯後の穴を掃除して洗浄する、6)縫合する――という手順で抜歯します。
縫った糸は通常1週間後に取ります。
親知らずが歯ぐきに埋まっている部分が少なければ、歯ぐきを切ったり骨を削ったりせずに抜歯できることもあります。

 

Q 抜歯後、痛みはいつまで続きますか? ほかにどんなことが起きますか?

痛みは抜歯当日と翌日がピークです。痛み止めを使えば徐々に和らぎます。抜歯の翌日までは歯ぐきからジワジワと出血することがあります。抜歯当日にガーゼをかんで歯ぐきを圧迫すると、比較的早めに止血します。
腫れは抜歯後1~2日後がピークで、1週間かけて引いていきます。腫れがひどいほど、口が開かなくなりますが、徐々に治ります。
まれに唇の周りのしびれや麻痺が生じることがあります。しびれや麻痺は一度症状が出ると、数カ月間続くことがあります。

 

Q 親知らずを痛みなく抜くには?

全身麻酔や静脈内鎮静法で抜歯を行う方法があります。全身麻酔は、完全に無意識状態で痛みは一切感じません。全身麻酔では口や鼻からチューブを肺まで入れ人工呼吸器に繋いで呼吸を管理します。
治療中の事はまったく覚えておらず、「寝て起きたら終わっている」という麻酔です。
静脈内鎮静法は、全身麻酔と局所麻酔の中間的な麻酔です。患者さんご自身の呼吸は止めず、ウトウトして周りへの関心が薄れた状態、または人によってはほとんど寝ている状態で管理し、その間に抜歯を行います。
それぞれ長所短所がありますので、手術を担当する歯科医師に相談しましょう。

 

Q 抜歯後の注意点は?

抜歯当日の入浴はシャワー程度にして、運動や飲酒、喫煙は控えてください。抜歯の翌日以降は、ご自身の体調次第で軽い運動などは行えます。
食事は普通にできますが、口が開かないときはお粥やゼリー状のものが食べやすいでしょう。歯みがきは歯ぐきを縫った部分以外は普通にできますが、縫合しているところは軽く汚れを落とす程度にしてください。
抜歯したところを氷などで冷やさないでください。冷やしすぎると頬が硬くなります。
痛い場合は、我慢せずに痛み止め(消炎鎮痛薬)をしっかり飲みます。薬をのんでも我慢できないほど痛みが強い場合、出血が多い場合などは担当医に連絡しましょう。

 

■参考文献

必ず上達抜歯手技 堀之内康文  クインテッセンス出版 2010
*親知らずについては、本サイトの「項目から記事を探す」から「親知らず」の項目をクリックすると、解説記事が閲覧できます。ご興味があれば、こちらも参考になさってください。

 

執筆者情報
真下 純一
神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会 会員
ファミーユデンタルクリニック

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