大人のむし歯 「根面う蝕」にご用心

執筆者
神奈川県歯科医師会・海老名市歯科医師会会員 千葉 容太

最近、歯肉が下がった、歯が長くなったように見える、歯の間に食べ物がはさまりやすくなったと感じていませんか?
注意しないと、厄介なことになるかもしれません。
今回は、最近注目されている大人のむし歯「根面う蝕」についてお話しします。

根面う蝕とは

加齢や歯周病により歯肉が下がり、丈夫なエナメル質に覆われていない歯根が露出します。この根面がむし歯になることを「根面う蝕」といいます。
本来、歯肉、骨(歯槽骨)の中にあり、歯を支えている土台が露出し、蝕まれると、その上の歯のかむところ(歯冠)がむし歯になっていなくても、歯の大部分を失ってしまうことになりかねない怖いむし歯なのです。
最近の調査では、70代の65%、80代の70%がなっているとされ、それまでむし歯の経験の少ない方でも注意が必要です。

 

根面う蝕が厄介な点

1) 自覚症状が少なく、発見しにくい
 初期の色の変化が少なく、しみる、痛いなどの自覚症状が乏しいので、早期発見が難しいのです。

2) 歯ブラシのみでは清掃が難しい
 歯肉が下がって露出した根面、特に隙間は歯ブラシだけでは清掃が難しく、歯間ブラシ、ワンタフトブラシなどを併用しないと、磨き残しが生じやすい場所になります。

3) 歯冠部に比べてむし歯が進行しやすい
 歯冠部は硬く厚みのあるエナメル質で覆われていますが、根面は薄く柔らかい象牙質で、これはエナメル質より酸に弱く、溶けやすいのです。
また、無機質であるハイドロキシアパタイトが主成分のエナメル質は唾液による修復作用や、フッ化物の効果も高いのですが、コラーゲンなど有機質が30%も含まれる象牙質は唾液による修復が期待できません。

4) 治療が難しい
 根を取り囲むように広がり、さらに歯肉の下にも広がることで、むし歯の部分を取り除き、埋める操作が難しくなります。また、健康な部分とむし歯の部分の境があいまいで、神経にも近いこともあり、治療の必要上、神経を取り除かなければならないケースもあります。

5) 治療後も長持ちしにくい
 治療の難しさは、その後の経過に強く影響します。
そもそも、歯根が露出するということは、歯周病などで歯を支える骨が減っており、埋まっている根が短くなりますので、噛む力を受け止める力も衰えています。さらに、むし歯を埋めた周囲からさらにむし歯が広がり再治療となることもあります。

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根面う蝕にならないためには

1) まずは歯肉が下がる一番の原因の歯周病予防
本来なら歯槽骨の中にあるべき歯根が露出することを防ぐのが最善の予防となります。歯ブラシに加えフロスや歯間ブラシの使用が効果的です。

2) 歯周病予防、う蝕の早期発見のための定期検診
歯周病の予防に加え、自覚症状に乏しい根面齲蝕の発見には定期検診が必要ですし、清掃方法の食生活の指導、フッ化物塗布などプロの管理により、長期の安定が見込まれます。

3) 家庭でのフッ化物の利用
高濃度フッ素配合歯みがき剤、フッ化物配合洗口剤の使用が効果的です。
フッ化物の効果を高めるためには、味が残るくらいに少量の水で、1回だけ軽くゆすぐ程度にとどめるようにしてください。
洗口液はうがいをするだけで、すみずみまで行き渡るので、露出した歯根には効果的です。市販のものと、歯科医院で処方(より高濃度)されるものがあります。

歯肉が下がり、露出した根面は清掃も難しく、加齢による唾液の減少などから、根面う蝕が多発し、歯を失ってしまう危険が高まります。
かかりつけの歯科医院での定期的なケアと家庭でのフッ化物の利用で、大切な歯を守りましょう。

執筆者情報
千葉 容太
神奈川県歯科医師会・海老名市歯科医師会会員
ユーカリ歯科医院

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