予約制の歯科医院が多い理由【中編】

患者さんの6つのメリット

前編に引き続き、予約制が患者さんのメリットとなる6つの理由について、具体的にご説明しましょう。


患者さんをお待たせしない

 予約制にせず、従来通りの順番制にすると、時間のかかる処置が重なった場合など、患者さんを1時間以上お待たせしてしまう可能性があります。
実際、多くの歯科医院が順番制をとっていた時代には、患者さんに長時間お待ちいただいても診察することができず、やむなく「また明日来て並んでください」とお願いすることも少なからずありました。

 

消毒や診療の準備を十分にとり、診療を円滑に進めることができる

 歯科医院では、患者さんの症状に応じて処置に必要な時間をある程度予測することができます。そのため、必要な機材を準備し、十分な診療時間を確保するには、やはり予約制が望ましいといえます。
規模の大きな歯科医院はこの限りではないと思いますが、歯科治療は「外科処置」であるため、きちんとした処置を行うためには予約制で対応したいというのが歯科医師の本音です。

 

精度のよい歯のかぶせ物や入れ歯(技工物)の製作には時間が必要

 かぶせ物や入れ歯をつくるためには、まず歯科医院で歯の型取りを行い、それを石膏模型にして専門の歯科技工士さんにお渡します。
その後、歯科技工士さんが手作業でかぶせ物や入れ歯を作成しますので、歯科医院に届くまでにはどうしても時間がかかります。
最近は3Dプリンタなどデジタル化も進んでおり、製作期間の短縮も見込まれています。しかし、よりていねいな手仕事が求められる場合には、その分時間がかかるのです。
できあがったかぶせ物や入れ歯を患者さんのお口にセットし、使用感を確めていただくためにも次回の予約が必要となります。

 

診療中、長時間お口を開けていることが避けられる

 患者さんのなかには、「診療期間を区切らず、1回の受診でできるだけ長時間治療して欲しい」という方も多くいらっしゃいます。
しかしながら、長時間口を開けているのは意外に困難です。
噛む筋肉が咬筋、側頭筋、内側翼突筋という3つの筋肉であるのに対し、口を開ける筋肉は外側翼突筋という細い筋肉のみであり、実はこれはとても疲れやすい筋肉なのです。
ちなみに、ワニが口を開けるために使う筋力は、人間の手で抑えれば開かないほど弱いといわれています。このことは人間も同様で、口を開け続けていられるのは20分が限度と考えられています。
加えて、歯科治療の最大の敵は唾液です。唾液によって、むし歯治療のための樹脂やかぶせ物の接着が弱くなったり、根っこの治療中に再度感染して治りが悪くなったりしがちです。
このように、歯科治療で唾液が触れていいものは少ないのです。また、唾液を排除しながら長時間治療を行うのは限界があります。歯科医院で1回の治療時間を最長30分以内に抑えているのは、主にこのためです。

 

治り具合を確認したりお薬が効く時間を待ったりするなど、計画的な治療が提供できる

 次の治療まで時間を空けるのは、お薬によって歯の根の消毒がきちんとできているか、歯を削った後にしみたり痛みが残ったりしていないかなど、治り具合を確認するためでもあります。
歯科治療は、患者さんご自身の治癒力や免疫力によって治るまでの期間に違いが出ることも少なくありません。
一歩進んだ治療をするか、現状維持で治ってくるのを待つかなど、治癒経過を診るために次の処置までの間隔をあけたほうがよいことがあることをご理解ください。

【後編に続く】

 

■引用文献

歯科医院のトリセツ 笠間慎太郎・著 医歯薬出版株式会社

歯科六法コンメンタール(第2版) 社会歯科学会

 

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会 会員

いとう歯科クリニック 伊東 聡

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