よく噛む人は元気です! 「見直したい、固い食べ物の大切さ」

あごの骨も筋肉も丈夫に

あごの骨も筋肉も丈夫に

乳児のあごの骨は噛むトレー二ングによって、そしゃく力を高め、歯並びを整えながら段々と顔形を形成していきます。噛む行為によって歯はもちろん、歯ぐき、あごの骨、咀嚼筋、舌、唇などがうまく働いてその機能を増して行くのです。

歯ぐきの骨の細胞は、カルシウムなどの栄養を噛むことによって取り込んでいきます。ところが、この噛む力が弱すぎると代謝機能がうまく働かず骨が発育不良になってしまいます。次第に歯ぐきの抵抗力も弱まって、歯が抜けてしまことにつながります。

歯並びが左右でズレていると、あごの関節に加わる力に左右で差ができてしまいます。これが成長期の子どもだと、何と顔の輪郭にゆがみができてしまいます。ひどくなるとこれが背骨にさえも影響を及ぼして、脊柱そくわん(内側に曲がってしまう)の原因にもなります。噛めば噛むほど筋肉が正常に作用して姿勢が良くなり、運動能力も高まるでしょう。

噛むということは、首すじ、胸、肩、背中にある12種類(左右1対で24個)の筋肉を総動員して下顎を動かすことです。上半身をまっすぐに伸ばしていないと、下顎を正しく動かすことができません。

逆に言えば、よく噛んでいると自然に姿勢が良くなります。運動能力も高まると同時に、背骨が曲がることによって惹起される多くの全身的な病気の予防にもつながります。

頭の働きがさわやかに

咀嚼運動は横隔膜の上下運動や手足の屈伸運動などとともに、心臓の補助として重要な役割を果しています。これらの運動によって、身体の各部分の静脈血がうっ血することなく心臓に戻ります。特に噛むことの刺激によって、脳の血管が拡張して新しい血液が補給されます。咬筋の周りにからみ合っているスポンジ状の静脈から、噛むことによって汚れた血液が心臓の方にスポンジをしぼるようにして戻されるからと言われているからです。

噛めば噛むほど頭の血の流れが良くなり、働きがさわやかになります。一方、噛む動作は脳の中枢神経を仲立ちとして、運動や呼吸、ホルモンなどをつかさどる内分泌の働きと複雑に絡み合っているために、赤ちゃんの全身の発育を助けるとともに、老人性痴呆の予防にも大きな効果を果たしてくれます。

噛めば噛むほど口の周りや顎関節の周りにあるツボを刺激して、脳神経や内臓に働きかけます。心が安定し情緒が豊かになるとともに、表情筋を刺激して表情も豊かになるでしょう。

ガン、肥満、ボケの予防にも! 少量の食べ物で満腹感

中年になってお腹の出具合を気にするようになる肥満。この肥満も、よくかんで食べる習慣を身につけることによって防げます。ゆっくりとよく噛んで食べていると、身体がポカポカして発汗が盛んになります。エネルギーが熱として体外に捨て去られることによって、肥満にならずにすみます。味覚が刺激されるとノルアドレナリンの分泌が高まり、全身の細胞の活動が盛んになるために熱が発生するからです。

これが体熱産生反応だけではありません。よく噛むことは少量の食べ物で血液の中の血糖値を上げて、満腹感が得られます。栄養分が消化吸収されると血糖値が上がって大脳から、「もうたくさん!」という指令が出ますが、急いで早食いをするとこの血糖値が上がる前に、もう沢山の食べ物がお腹の中に入ってしまっているということでもあります。

唾液は無料の万能薬

毎年約20万人が亡くなり、日本人の死亡原因のトップを占めるガン。唾液には、私達の食事に含まれるいろいろな発ガン性物質の毒性を消す効果があると言われます。

唾液を混ぜる時間が長いほど毒消し効果は強く、毒性が元の1~2割に薄まるのに約30秒、1回噛むのに成人でも子供でも大体1秒かかるので、「食事は1口30回」が望まれるわけです。これは発ガン性物質が作り出す活性酸素を、唾液に含まれるペルオキシダーゼという酵素が消してしまうからと考えられています。唾液にはこのほか、消化を助けるアミラーゼ、骨や筋肉・血管・結合組織を丈夫にして老化を防ぐパロチン、口腔内細菌の繁殖を抑えるリゾチームなどが含まれています。

また、噛めば噛むほど口の中の自浄作用が促進されます。食物繊維や唾液などの流れによって口の中が自然にきれいになるということであり、話をしたり笑ったりすることでも、この自浄作用は促進されると言われます。こう考えると唾液は無料の万能薬でもあり、噛む手間も惜しくはないことが理解できるかと思います。