心身の健康はお口の健康から

神奈川県は、人生100年時代を見据え、平成29年3月に「かながわ未病改善宣言」を発表しました。
では、未病とはなんでしょうか。
古来、心身の状態は「健康」か「病気」かという2つに分けられるのではなく、絶えず「健康」と「病気」の間を行ったり来たりしていると考えられてきました。「未病」とは、このような「健康」と「病気」の間の変化の過程を指します（図1）。
この宣言の目的は、日常生活で「未病」を改善し、心身をより健康な状態に近づけようというものです。
未病を改善し、健康長寿を達成するためには、心身の健康だけでなく、お口の健康をよりよく保つよう努めることがきわめて大切です。

図1　「未病」は「健康」と「病気」の間の変化の過程

人生100年時代を幸せに生きるためには「未病」の改善がポイント！

誰しも、健康で自分らしい人生を過ごしたいと願っておられることでしょう。
社会保障は国の重要な政策であり、歳出の大部分を占めています。少子高齢化、人口減少に歯止めのかからない現在、社会保障費は年々増加の一途をたどっています。
健康寿命をいかに延ばしてすこやかで自分らしい人生をまっとうするか、これは個人の問題だけにとどまらず、国としても大きな課題となっています。
近年、老年医学分野の研究の進展や大規模な疫学調査の結果に基づくデータの解析などにより、健康寿命の延伸にかかわる要因が解明されてきました。
こうした背景のもと、かながわ未病改善宣言では、次のような「2つの理念」と「3つの取組み」を掲げ、すべての世代が未病を自分のこととして考え、行動していけるよう、ライフステージに応じた未病対策を進めています。

■2つの理念
　　理念1：「超高齢社会を幸せに生きるには未病の改善が大切だ」という価値観を県民文化として育て、
　　　　　　人生100歳時代に向けた「スマイルエイジング」を実現します。
　　理念2：そのため、未病改善について皆で学び、県民1人ひとりはもとより社会のあらゆる主体が協力しあって、
　　　　　 ライフステージに応じた未病改善の取組みを展開します。

■3つの取組み
　　食：毎日の食生活を見直し、健康的な食生活へ改善すること。オーラルフレイル対策も重要です。
　　運動：日常生活にスポーツや運動を取り入れること。質の良い睡眠も重要です。
　　社会参加：ボランティアや趣味の活動等で他者と交流し、社会とのつながりを持つこと。

図2　「食」「運動」「社会生活」をバランスよく充実

お口の機能の衰えは、心身の衰えに先行して現れると考えられています。具体的にいえば、滑舌（かつぜつ）が悪くなったり、食べこぼしたり、食べたあとにむせたり、噛めない食品が増えたりしたら要注意です。
食べられなくなると十分な栄養がとれなくなり、当然のことながら身体活動も低下します。
うまく話せなくなると、外に出て人と交わることがおっくうになって社会参加の機会が減るおそれがあります。
むし歯や歯周病で歯を失ったり入れ歯が合わなくなったりすると、見ばえの悪さからますます社会参加の意欲が低下しかねません。
オーラルフレイルの症状は、このような悪循環によって重症化していくと考えられます。
※オーラルフレイルについて

お口のことで気になることがあればかかりつけの歯科医院に相談！

お口の機能の衰えは、心身の機能が低下し、日常生活に支障をきたすようになるのを防ぐための重要なサインといえるかもしれません。
どんな病気も予防と早期発見、早期治療に努めることが大切です。
日ごろから火の用心に気を付け、たとえ失火したとしてもボヤのうちに気づいて消火すれば大火事に見舞われることはありません。
未病とは、つまりボヤのようなものと考えればよいでしょう。
お口の機能のささいな衰えは、ご自分では気づきにくく、また認めたくないものです。思いきって周囲の人々に尋ねてみれば、「前から言おうと思っていたんだけど…」と指摘してくれるかもしれません。
神奈川県歯科医師会では、平成14年度からオーラルフレイルの予防や早期発見、早期治療を行う「摂食･嚥下障害歯科医療相談医」を育成しています。また、平成30年度の診療報酬改定では「口腔機能低下症」という新しい概念が導入されました。
お口のことで気になることがあれば、かかりつけの歯科医院や摂食･嚥下障害歯科医療相談医で調べてもらい、適切な対策をとりましょう。
このことが健康寿命を延ばし、健康で自分らしい人生をまっとうするための第一歩となることを、ぜひご理解ください。

神奈川県歯科医師会・横浜市歯科医師会会員
小嶋歯科医院　小嶋伸之

参考

1)未病の改善（健康寿命の延伸をめざして）－神奈川県ホームページ http://www.pref.kanagawa.jp/docs/cz6/cnt/f480290/